生涯、山の絵を描き続けた田崎廣助の美術館が軽井沢町にある。文化勲章受章者となった田崎の画家としてのスタートは３０歳になってからのことであった。渡欧後、日本人の日本的油絵を目指した廣助は、生まれ故郷の阿蘇山を心に、富士山、八ケ岳、妙高など多数の山々を描いた。特に、故郷の阿蘇に似た浅間山をこよなく愛し、軽井沢にアトリエを構え、８６歳まで生きた。伊東真由美さんのオリジナル曲が番組に彩りを添える。

道楽者の若旦那がいた。嫁をもらったがすぐに家を空けてしまう。嫁は郷里に戻ったが病に倒れ、大旦那が見舞いに向かった。若旦那はこれ幸いとなじみの芸者、菊江を家に招いて大騒ぎ。そこへ急に大旦那が帰って来たので、若旦那はあわてて菊江を仏壇の中に隠す。

雪深い新潟県の永林寺に数々の欄間彫刻の名品を残した幕末の彫刻師・石川雲蝶。江戸雑司ケ谷で生まれ、２０歳の時にはすでに彫刻師として名声を得ていた。「郷里の寺に欄間を彫って欲しい」という新潟・三条からきた金物屋の頼みに、“よい刃物”と“酒”の二つの条件を付けて応える。三条の寺の欄間は雲蝶の死後まもなく焼失したが、南魚沼郡堀之内町の「永林寺」にはその力量を存分に発揮したと思われる作品が多数残されている。『黒雲の中の白い蝶のように』と生きた雲蝶の作品を紹介しその真髄に迫る。◆永林寺・欄間彫刻、牡丹と孔雀、波に金鯉、天女、天ノ邪鬼香炉台、小夜の中山蛇身鳥物語「出発の図」「仙人の図」◆西福寺・天井彫刻、道元禅師猛虎調伏の図

人間はいかに死ぬか、死後の世界はどのようなものか記したチベット仏教の聖典「死者の書」をもとに、生と死の哲学を映像化。ドキュメンタリー編とドラマ編を２夜連続で放送した。◆第２回は、宗教学者・中沢新一がシナリオ化した「死者の書」を現地の老僧と少年が演じるドラマ。貧しい農家の末っ子に生まれた少年・ツプタンは８歳のときに寺に預けられ、５年の修業を積んだ。この冬、初めて老僧とともに死者を送る儀式を行う。死から再生への４９日間の世界を死者に語りかけ、悟りへと向かわせる。真の喜びとは何か、人はなぜ生きるのか、生命の本質とは何か。少年は老僧パドマとともに死後の世界に入り込んでいく。

かつて、ほとんどの家には日本家屋の象徴たる床の間があった。やわらかに自然光を取りこむ付書院、実用と装飾を兼ねた空間・違い棚。それら特徴的な日本的空間の起源を縄文・弥生の昔から、平安貴族の暮らした寝殿造り、武家社会に受け継がれた書院造りの中にたどる。日本の風土に見合った生活空間のデザインや機能性豊かな建築様式を、園城寺、慈照寺、醍醐寺など代表的な建築の中に探りながら、現代に通じる快適な住居とは何かを考える。◆【国宝】光浄院客殿、慈照寺東求堂、醍醐寺三宝院表書院・宸殿、法然上人絵伝（知恩院）【重要文化財】住吉物語絵巻、伏見稲荷神社御茶室

近代日本文学の名作を、当代一流の顔触れでテレビドラマ化する２週連続のシリーズ。この回は夏目漱石の「門」「それから」を大山勝美の演出で描く。（１９９３年５月３１日・６月７日放送、全２回）◆野中宗助（風間杜夫）は、友人・安井（古尾谷雅人）の妻であるお米（有森也実）と通じてしまった。戻ってきた安井に、宗助はお米と別れてくれと頼み込むが、安井は応じずお米の心を取り戻そうと手を尽くす。親元に二人の関係を知られて宗助は勘当、大学も中退せざるを得なくなり、お米は心痛のあまり病に倒れる。それでも二人の気持ちは動かないと悟った安井はひとり姿を消す。

日米双方の社会に大きな波紋を広げた日本人留学生射殺事件。銃規制を求める署名運動を起こした両親の姿を通してこの事件が残したものを描く。◆名古屋の高校生、服部剛丈君（当時１６歳）は１９９２年１０月、留学先のアメリカ・バトンルージュ市で射殺された。パーティに参加しようとして訪問先を間違え、その家の主人に撃たれるという事件だった。息子を失った両親は、その死を無駄にすまいと米社会に銃の規制を訴えかける。犯罪はもとより誤射や事故など銃による悲劇があとをたたないアメリカ、しかしこの国と銃とは長い歴史と深い関わりで結び付いている。

忠臣蔵に沢山ある物語の一つ。早駕籠を乗り継ぎ、江戸表の事件を国表に知らせた萱野三平は、仇討の血判状にも名を連ねてその日に備えていた。しかし父親は、浅野よりも萱野の家が大事と息子に仕官をすすめていた。仇討に加わることは家門の誉れとしながらも、己の仕える主君への身の処し方や後々の一家の行く末を考える父。忠と孝の板ばさみになった三平は、大石に手紙を書き、自らは死を選んだのであった。◆作：室町京之介