佐世保か横須賀かと、気をもませた米原子力潜水艦シードラゴン号の日本寄港は佐世保と決まり、全国各地で原潜阻止の抗議集会が行われた。１９６４年１１月１２日早朝、米海軍第７艦隊所属のシードラゴン号は佐世保港に灰色の船体を現わした。一方寄港に反対する社会党系は基地正面に座り込み、このデモで社会党の楢崎弥之助代議士が公務執行妨害で逮捕されるという事件が起きた。しかし市民はデモ騒ぎをよそに平静そのものである。３日間休養した昭和の黒船は、心配された海水の汚染もなく静かに出航して行った。

砂利トラックが我が物顔につっ走る厚木街道。交通事故は絶え間なく連日死傷者を出す魔の国道。この沿道にある横浜市保土ケ谷区には救急車がわずか１台しか無く、頻発する事故をさばききれない。二俣川に住む小笠原さんは救急車の到着が遅れて助からなかった交通事故の犠牲者を見て、自分で救急車を購入、無料サービスをかって出た。今まで２年半の間に運んだ患者は２８００人を数え、４万５千キロを走った。おかげで今では近所の人たちから民間救急車のおじさんと親しまれている。（町から村から）

新盆を迎えた大分県長洲町の家々では御殿灯籠作りの真っ最中。灯籠は７百年続いた郷土芸術で木の骨組みに紙をはり極彩色の精巧な細工。２ヶ月近くかかって作られた、高さ２メートルもある見事に出来上がった灯籠は近所の人に披露される。その昔、平家の落人が一族を弔ったことに始まる、とうろう流しは勢ぞろいして墓地に向かう。やがて追手を恐れた落人が、証拠をなくすため焼き捨てた古事にならい、おしげもなく燃やされる。ゆく夏を送る伝統の行事、はかなく美しい灯籠祭り。

東京大会まで後わずか、駒沢総合グランドや代々木屋内競技場では、日本建築界の粋を集めた工事も完成間近。開会式と閉会式の入場券抽選（１９６４年１月２２日）は１９７．５倍の高い競争率。青い目のお客を家庭に招待して民間外交を目指すホームビジットもなかなか好評。人柄の良さを買われて女子選手村の村長に選ばれた貞閑晴さんは、選手に気持ちよく過ごして貰おうと早速下検分、皆の気持ちがピッタリしなければオリンピックは成功しないと張り切っている。

東京オリンピックまであとわずか。佐藤栄作・オリンピック大臣は建設中の競技場の視察に出かける。朝霞の陸上自衛隊では強化合宿中のフェンシングとボクシングチームを訪ねて選手を激励、日の丸が上がる自信を持ったと満足そう。忙しい合間に静かな茶室で一時を過ごす佐藤五輪相。１２年前に始めた茶道は免許皆伝の腕前。政局の動きも忘れ、さびの境地を夫人とともに楽しんでいる。

東京オリンピックまであとひと月、工費３０億円、観客１万５千を入れる釣り屋根方式では世界一の屋内総合競技場も完成。国立競技場の陸上最終選考会では聖火リレーのリハーサルに最終ランナー坂井義則君が登場、トラックを４分の３周、２百段余りの階段を聖火台まで駆け上がり、きっかり２分、オリンピックもいよいよ秒読みの段階。さて東京を目指す聖火は７番目の訪問地ラングーン入りした。タイのバンコクではおりからのスコールの中をひた走り、マレーシアの首都クアラルンプールについた聖火は日本、マレーシア両国旗に飾られて南国の空に燃え上がる。フィリピンではマニラ湾沿いに走り続け、香港ではクーロン（九龍）からランチに移して初めて海上をリレーした。聖火は１９６４年９月７日、台北をへて那覇に到着。アテネを出発以来１８日目に日本の土に第１歩をしるした。

兵庫県村岡町の兎和野高原に小さな劇団村が誕生した。姫路市にある演劇サークル「柿の木」と村岡町の人達の協力で作られた劇団のベース・キャンプ。「柿の木」は姫路の工場に働く若い人達の劇団。仕事の合間に演劇を勉強、娯楽に恵まれない人たちを慰めてきた。なかでもしばしば訪れた村岡町の人達とは大の仲良し。この美しい土地に団員はみんなのいこいの場をつくろうと計画、村から土地の提供を受けて昨年の秋から劇団村の建設が始まった。こうしてこの夏小さいながら山小屋が完成、お祝いの初公演には地元の人達３百人が詰めかけた。太陽が輝く緑の大劇場、演ずる人も見る人も一つにとけこんで楽しい雰囲気。団員の熱意と地元の善意の結晶、劇団村はみんなの楽園としてそだてられていくことだろう。（町から村から）

春浅い島根県三瓶山麓東の原、昭和３５年に人生の卒論を大地に書こうと入植した東京農工大学の卒業生たちは、４年目の春を迎えた。初めは６人だった学士開拓団も嫁さんを迎え、子供もできて今では１８人の大世帯。入植の時借りた１千万円の開拓資金の返済はいよいよ来年から始まる。それに備えて彼らは所得倍増の５ヶ年計画を立案中。経営の中心は酪農で、現在の乳牛３４頭を７０頭に増やし、年間７百万円の収入を目論んでいる。（町から村から）