風光明媚な宇和の海をのぞむ愛媛県三瓶町は人口１万５千の小さな町。ここに百年来伝わる朝日文楽は生っ粋の大阪文楽の流れを汲む郷土芸能だが、いつしか時代の流れに取り残されて町の古老を嘆かせていた。ところが３年前、保存会が作られたのをきっかけに、青年たちも加わって朝日文楽の継承に乗り出した。この春には国の無形文化財に指定され、文楽復興の機運が盛り上がった。（町から村から）

雪深い青森県八戸市是川の農家に、東京で働いている子供たちから嬉しい手紙が届いた。思いもかけぬ東京見物への招待状だ。８年前八戸市から集団就職の第１号として上京した新山君をリーダーに、是川中学校の同窓生２７人は故郷を忘れないようにと清流会というグループを作った。会の人たちは自分たちの働く姿を両親に１度見て貰おうと、僅かな給料の中から１年間に４０万円の招待資金を作った。是川では子供たちが東京に呼んでくれると大喜び、５６人の家族は揃って上京した。久しぶりに元気な姿を見て安心しあった親子は早速バスで都内見物へ。皇居前では子供たちがカメラマンに早変わり、オリンピックの開かれる国立競技場の大きさにびっくり。こうして立派に成長したわが子の温かい心尽しをおみやげに両親たちは安心して国に帰って行く。（町から村から）

香川県大川郡の長尾町はいま夏の収穫の真っ最中、農協の集荷所は猫の手も借りたい忙しさ。この町の農協は全国でも珍しい多角経営を営み、現在２３種類の事業を行っている。長男は畑で働き２、３男は農協で働くという農村の新しい行き方が見られる。郡内３０の小、中学校の給食を一手に引き受けるパン工場。農機具から自動車にいたる修理工場も経営している。また１５００万円でデラックスなガソリンスタンドも完成した。中でも一番のドル箱はモダンなスーパーマーケット。またスーパーマーケットに来られない人のために移動マーケットも開業、将来は近在の農家を一手に握ろうとサービスにけんめい。出来ることは何でもやろうというマンモス農協、商売人顔負けの商法で多角経営の道をばく進中である。（町から村から）

台湾での第１１回東南アジア映画祭に出席する永田雅一大映社長ほか２７名の日本代表団が羽田に勢ぞろい、映画を通じて親善を深めたいと台湾に向かった（１９６４年６月１５日）。（週間話題）

訪れた美術の秋に、ピカソとならんで今世紀最大の画家と言われるサルバドール・ダリの作品展が話題を呼んでいる。飾られた１３３点の作品はどれも話題作ばかりを並べ、幻想美術の王様はファンを煙にまいている。（週間話題）

１９６４年５月２７日、ネール首相死去の知らせに東京のインド大使館には在日インド人が詰めかけ父とあおいだ指導者の冥福を祈った。池田勇人首相も大使館を弔問、政府代表として大平正芳外務大臣は葬儀に参列するため急きょインドへ向かった。インド独立に生涯を捧げたガンジー翁の後継者として若くして独立運動に身を投じたネール首相。１９４７年の独立以来、１７年の長きにわたり首相をつとめ、国民の信頼を集めた。一方、中立外交をとなえて国際舞台にも活躍、米・ソの橋渡し役として国際緊張の緩和に努めた功績は高く評価されている。１９５７年（昭和３２）には日本を訪問、熱狂的な歓迎を受け、子供たちの希望にこたえて贈った象のインディラと８年ぶりに対面した。アジア・アフリカの新興勢力を背景にしたネール外交は、中国・パキスタンとの紛争が未解決のまま。ネルー首相は在任途中で７２歳の波乱に富んだ生涯を終えた。

東京オリンピックのハイライト、マラソンの代表選手を決める第１９回毎日マラソンが１９６４年４月１２日、五輪コースの甲州街道で行われた。この日並行して５０キロ競歩の選手選考会も開かれ、広い道路いっぱい熱戦が繰り広げられた。３４キロを過ぎて君原健二が寺沢徹、土谷和夫、マラソン出場２回目の円谷幸吉らの懸命な追走をかわして独走態勢、故障を乗り越えて快走を続け、２時間１７分１１秒４の大会新記録でゴールイン、２位円谷、３位寺沢であった。選考の結果、君原、円谷、寺沢の３人が晴れの代表に選ばれた。

世界を湧かせた３人乗り宇宙船から一転して１０月１６日のフルシチョフ首相の辞任は世界に大きな衝撃を与えた。一方、ソビエトと対立する中国はフルシチョフ首相辞任に追いうちをかけるかのように初の核実験を行い、米、英、ソ連、仏につづく五番目の核兵器保有国としての名乗りを上げた。スターリンの暗黒政治のあとを受けたフ首相は積極的な東西の融和を唱え昭和３５年アメリカを訪問、軍縮を呼びかけるなど雪解けムードが広がった。しかし待望のパリ会談を前に米の黒いジェット機事件で会談は中止された。昭和３６年（１９６１）のベルリン危機も、翌３７年（１９６２）のキューバ危機もこの２人の努力で回避された。３８年（１９６３）には部分的核実験停止条約に米・英・ソ３国が調印するなどフ首相の外交手腕は高く評価された。