オリンピックムードで明けた１９６４年。天災、人災もあいついだ。大分空港で死者２０名を出した２月の富士航空機墜落事故。６月１６日東日本を襲った震度５の大地震で新潟市は大きな被害を受け、燃え続けた石油タンクの火事は地方都市の防災体制に大きな警告を与えた。危険物の管理の悪さから起きた７月の東京品川の化学倉庫爆発では消防士１９人が殉職。台風２０号、日本海側地域の集中豪雨と今年もやってきた水害もさることながら、東京の水ききんは都政に厳しい批判が集まった。オリンピックを控え当局を慌てさせたのは千葉などの４都県に広がったコレラ騒ぎ。ライシャワー大使の襲撃事件は政府に冷汗をかかせた。今年の明るい話題は秋に入っての義宮さまと津軽華子さんのご結婚、時速２百キロの新幹線の営業開始であった。ギリシャから東京へ、東南アジア１１カ国をへて聖火リレー。１０月１０日、参加９４ヵ国、７千名の若人を集めて世紀の祭典、第１８回東京オリンピック大会が幕を開けた。世界の目が東京に向けられているさなか、ソビエトの３人乗り宇宙船の打ち上げ、さらに一転してフルシチョフ首相の解任は世界をあっといわせた。これに追いうちをかけるように中国は核実験に成功。英国では１３年続いた保守党政権が敗退、ウィルソン党首のひきいる労働党に政権が交代するなど、目まぐるしく移り変わる世界の動きの中でくり広げられた熱戦、多くの好記録を生んだ東京大会は若い人たちの友情を深めてその幕をとじた。この閉会式直後の１０月２５日池田首相は突然辞任、後継のイスをめぐる佐藤栄作、河野一郎、藤山愛一郎三氏の争いは佐藤さんに落ち着き１１月９日新内閣が誕生した。ゴールドウォーターかジョンソンか注目の米大統領選はジョンソン大統領が勝利をおさめた。ベトナムではグェン・カーン将軍が国民の反対で退陣、変わった民政も１１月の発足早々、退陣要求にあって混乱。コンゴの内戦では１５００名の白人を人質にした反乱軍に米・ベルギーが実力で救出に成功したものの、ツオンベ首相に対する反感は強くいまだに動乱が続いている。波紋を投げた米原子力潜水艦の寄港、救済の手を待つ北海道の冷害、吹きまくる不況の嵐にあいつぐ倒産、多くの難問題をかかえた佐藤栄作さん、来年はしっかりたのむ。

風光明媚な宇和の海をのぞむ愛媛県三瓶町は人口１万５千の小さな町。ここに百年来伝わる朝日文楽は生っ粋の大阪文楽の流れを汲む郷土芸能だが、いつしか時代の流れに取り残されて町の古老を嘆かせていた。ところが３年前、保存会が作られたのをきっかけに、青年たちも加わって朝日文楽の継承に乗り出した。この春には国の無形文化財に指定され、文楽復興の機運が盛り上がった。（町から村から）

春闘のうちに迎えた「働く者の祭典」第３５回メーデー。６０万人が参加した東京の中央メーデーは、オリンピック施設工事の関係で会場を大井競馬場など５ヶ所に分散して行われた。東部会場となった猿江公園には地元の町工場からも参加者が集まり、デモ行進は下町らしい雰囲気に包まれた。一方、全学連は国会前に座り込んで警官隊と小競り合いを演ずる始末。台風の目といわれた全学連が僅かに暴れただけで今年のメーデーは穏やかに幕となった。

東京オリンピック開幕間近。世界最大の旅客機ＴＵ１１４で羽田入りしたソビエトチーム。日本の強敵女子バレーチームの顔も見られる。１００ｍ背泳で期待のイギリスのノフォークさん。統一ドイツチームの第一陣の中で目立つローマ高飛びの優勝者クラマーさん。そして相継ぐ来日選手団に混じってミスターオリンピック・ブランデージＩＯＣ会長も来日した。折から世界中のお客様を迎える町では、五輪の町を美しくと官民あげて美化運動。お役所も清掃パトカーをくりだして不心得者に目を光らせている。９月２６日、五輪選手村では参加者２名のコンゴをはじめ、オーストラリア、韓国、ルーマニアが参加して入村式、国籍を越えた交歓風景がみられる。村内では各国選手が早くも最後の調整に入った。

雪深い青森県八戸市是川の農家に、東京で働いている子供たちから嬉しい手紙が届いた。思いもかけぬ東京見物への招待状だ。８年前八戸市から集団就職の第１号として上京した新山君をリーダーに、是川中学校の同窓生２７人は故郷を忘れないようにと清流会というグループを作った。会の人たちは自分たちの働く姿を両親に１度見て貰おうと、僅かな給料の中から１年間に４０万円の招待資金を作った。是川では子供たちが東京に呼んでくれると大喜び、５６人の家族は揃って上京した。久しぶりに元気な姿を見て安心しあった親子は早速バスで都内見物へ。皇居前では子供たちがカメラマンに早変わり、オリンピックの開かれる国立競技場の大きさにびっくり。こうして立派に成長したわが子の温かい心尽しをおみやげに両親たちは安心して国に帰って行く。（町から村から）

連日の熱戦に湧く国立競技場。男子１００ｍ決勝はアメリカのヘイズが１０秒０の世界タイ記録で優勝。女子走り高跳び決勝はルーマニアのバラシュが１ｍ９０でローマ大会についで連続優勝。駒沢のレスリング会場では日本チームがフリースタイルで大活躍。フェザー級の渡辺保夫、バンタム級の上武洋次郎、フライ級吉田義勝の軽量級トリオが金メダル獲得で気を吐いた。水泳女子１００ｍ自由形はオーストラリアのフレーザーが史上初の３連勝。アメリカのショランダーはこの大会で１００、２００、４００、８００リレーと４つの金メダルをとる怪童ぶりを発揮。大会８日目、棒高跳びは夜に入ってドイツのラインハルト、アメリカのハンセンの一騎打ちとなり、バーの高さ５ｍ１０、ハンセンは３回目ついに成功、ラインハルトは力つきて失敗。延々９時間にわたる激闘に終止符がうたれた。アメリカはこの種目１５連勝。

全日本チャンピオンのコンテストがせまってきた。美容院でオメカシの総仕上げ、お風呂に入り毛並を揃えてファッションモデル顔負けの全身美容。犬の世界も最近流行が激しく、出場する種類もぐんと増えた。舞台裏で最後の手入れが終って、いよいよコンテストの開始。歩いて、走って、こっちを向いてとミス・ユニバース並みの厳重な審査の結果、各クラスのチャンピオンが決まった。ご主人は有頂天、わが家の王様を囲んで乾杯である。

１９６４年７月１５日夜、東京品川の宝組勝島倉庫から出火、倉庫には硝化綿や爆薬など危険物が貯蔵されていたのを駆けつけた消防士は知らなかった。倉庫は大音響とともに爆発、消防士１９名が殉職、５７名が重軽傷を負った。宝組は１０日前に硝化綿の野積みや違反貯蔵で警告を受けた矢先の惨事であった。東京消防庁始まって以来の惨事は、近代消防のあり方に大きな問題を投げかけている。