中国遠征の旅に出た日紡貝塚チームは北京体育館で北京体育学校チームと対戦、６千人の観衆を前に妙技をふるいストレートで勝った。試合後、周思来首相は大松博文監督らにぜひコーチにきて欲しいと握手を求めた。８戦全勝、さらに沖縄では男子チームを軽く破り、通算１７４連勝を飾って帰国した日紡貝塚チーム。半田百合子選手の郷里・栃木県宇都宮ではさかんな歓迎を受けた。送迎会の郷土のヒロインを紹介する大松監督のユーモラスなあいさつは喝采を博した。こうして東洋の魔女たちはくつろいだ休日を過ごした。

アジアに初めてオリンピックの聖火を運ぶ空輸派遣団（高島文雄団長）は１９６４年８月１４日に、与謝野事務総長から聖火灯を受けアテネへ向かった。聖火は２１日、オリンピックで採火された後、アジア１２カ国を経て９月９日日本に到着する。開会式当日に聖火を運ぶ最終ランナーも、坂井義則君ら女子２人をふくむ１０名に決まった。参加国９０を越す史上最大のオリンピックの聖火は終戦っ子によって国立競技場に運ばれる。

聖火が東京に到着。１９６４年１０月９日、皇居前広場で一つにまとめられた聖火を迎えてわきたつ前夜祭。ギリシャから招待されたカッセリ夫人も参加して、日本情緒豊かにオリンピック・ムードを盛り上げた。この夜、新興国スポーツ大会に参加した選手の出場が認められず、全員帰国することになった北朝鮮とインドネシア選手団のお別れパーティーが開かれた。北朝鮮の金メダル候補辛金丹選手も開会式の前夜帰国した。アジアで初めて開催される大会に北朝鮮、インドネシア両国が不参加は主催国の日本として残念な出来事だった。１０月１０日は開会式の日は秋晴れのオリンピック日和となった。国立競技場周辺には開門前から１０万を越える観客がきた。神宮絵画館前のサブトラックには各国選手団がお国ぶりの服装で勢ぞろい。入場行進前に交歓風景も見られた。先頭はギリシャ、アフリカの新興国、カメルーン、コンゴは初参加。キューバ選手団、東西ドイツ統一チーム、それに次ぐアメリカ、ソ連はお互いに最強を誇るライバル同士、日本選手団の行進を最後に終了。参加国９４ヵ国、約７千人の若人が集う世紀の祭典、第１８回東京オリンピック大会は昭和天皇の大会宣言でははなやかに幕をあけた。その頃聖火は皇居前をスタート、国立競技場に向かう。オリンピアで採火されてから５１日目、２万６千キロのコースを１０万人もの若人達の手によってリレーされた聖火が最終ランナー坂井義則君の手にしっかりと渡された。やがて聖火は観衆の見守るうちに会場へ到着、聖火台に点火された。あかあかと燃え上がる聖火のもとオリンピック競技が始まった。大会３日目、渋谷公会堂で行われた重量あげフェザー級に出場した三宅義信選手は自分の持つ記録を更新して堂々優勝、日本初の金メダル。

東京オリンピックまであとひと月、工費３０億円、観客１万５千を入れる釣り屋根方式では世界一の屋内総合競技場も完成。国立競技場の陸上最終選考会では聖火リレーのリハーサルに最終ランナー坂井義則君が登場、トラックを４分の３周、２百段余りの階段を聖火台まで駆け上がり、きっかり２分、オリンピックもいよいよ秒読みの段階。さて東京を目指す聖火は７番目の訪問地ラングーン入りした。タイのバンコクではおりからのスコールの中をひた走り、マレーシアの首都クアラルンプールについた聖火は日本、マレーシア両国旗に飾られて南国の空に燃え上がる。フィリピンではマニラ湾沿いに走り続け、香港ではクーロン（九龍）からランチに移して初めて海上をリレーした。聖火は１９６４年９月７日、台北をへて那覇に到着。アテネを出発以来１８日目に日本の土に第１歩をしるした。

東京から２８０キロ、黒潮洗う八丈小島は人口わずか１６０人、電灯もなく飲み水も天水に頼る離れ小島である。先生３人、生徒９人の島の小学校に嬉しい便りが届いた。４年前から文通をはじめ、仲良くなった茅ヶ崎の円蔵ともしび会からの招待。船会社も運賃を特別サービスするなどみんなの善意に囲まれて６人の島の子供は出発した。初めて乗った船と電車、そして初めて見る大都会、東京のビルの海にはびっくり。茅ヶ崎では盆踊りも１ヶ月繰り上げて行われるなど盛大な歓迎を受けた。一番楽しみにしていた親善野球ではユニホームをプレゼントされた。また生まれて初めて真水のプールで泳いで大はしゃぎ、こうして８日間の夢の招待旅行を過ごした。（町から村から）

千葉県の習志野病院で死亡した男性は８月２５日コレラと判明、大騒ぎとなった。発病した旅館一帯は立入禁止。恐怖におののく市民たちは予防注射に長い列を作った。翌２６日には同じ旅館に泊まっていた人も保菌者と判り、コレラ騒ぎは都内にも飛火した。二人の歩いたコースを追ってしらみつぶしの消毒。東京、千葉、神奈川、埼玉など広範囲にわたって非常体制がしかれ、習志野のコレラ対策本部には医者、保健婦が総動員されて６日間緊張の連続。付近の住民１万人の検便に駆け回り全力をあげての封じ込めである。幸い二人を除いては陰性と分かりコレラ騒動は危機を脱した。（カメラ・パトロール）

連日の熱戦に湧く国立競技場。男子１００ｍ決勝はアメリカのヘイズが１０秒０の世界タイ記録で優勝。女子走り高跳び決勝はルーマニアのバラシュが１ｍ９０でローマ大会についで連続優勝。駒沢のレスリング会場では日本チームがフリースタイルで大活躍。フェザー級の渡辺保夫、バンタム級の上武洋次郎、フライ級吉田義勝の軽量級トリオが金メダル獲得で気を吐いた。水泳女子１００ｍ自由形はオーストラリアのフレーザーが史上初の３連勝。アメリカのショランダーはこの大会で１００、２００、４００、８００リレーと４つの金メダルをとる怪童ぶりを発揮。大会８日目、棒高跳びは夜に入ってドイツのラインハルト、アメリカのハンセンの一騎打ちとなり、バーの高さ５ｍ１０、ハンセンは３回目ついに成功、ラインハルトは力つきて失敗。延々９時間にわたる激闘に終止符がうたれた。アメリカはこの種目１５連勝。

春闘の天王山、戦後最大といわれる１９６４年４月１７日の半日統一ストライキを前に、公労協は嵐の前の静けさ。修学旅行シーズンに汽車や電車を止めないでくださいと、お母さん達も真剣な訴え。組合要求６千円に対し回答は６百円、しかしストは避けねばならぬと、社会党の成田知巳書記長も事態収拾に乗り出した。４月１６日、池田勇人首相は総理官邸に総評の太田薫議長と岩井章事務局長を招き、異例のトップ会談を開いた。その結果、政府は公労委の調停を尊重するという新例を開いてストは回避された。風雲急を告げた春闘はヤマを越した。