愛媛県吉田町河内にある大楽寺の住職さんは、３度の飯より機械いじりが好きという発明好きの和尚さん。お勤めの合間を見ては新しいアイディアを練り、廃品を使って次々と発明を続けている。ギターとマンドリンを組み合わせた新楽器、蓋を取ればレコードプレーヤーになるテーブル、太陽熱の利用、ペダル式水道栓、ボタン一つで開く障子、ネオンの点く扇風機など、家の周囲はアイディア作でいっぱい。また和尚さんは大の８ミリマニア。生前の姿をフィルムに収めて動画の過去帳を作ろうと、檀家回りのたびにカメラをまわしている。初めは縁起でもないと嫌がっていたお年寄りたちも、子孫への良い思い出になると希望者が続出、すでに１５０軒もの８ミリ過去帳ライブラリーが揃った。お経に替わってフィルムで紐解かれる過去帳は、生前を偲ぶ家族に好評を得ている。趣味と実益を兼ねた発明和尚さんは町の人気を集めている。（町から村から）

市始まって以来の人出に賑わう千葉県館山市に皇太子ご一家がお出でになった。これは浩宮さまの情操教育にとご夫妻が計画された南房総めぐりのレジャー旅行で、ご一家にとっては初めてのもの。房州イチゴの栽培やお花畑がすっかりお気に召されたご様子。町を上げての歓迎にわく白浜では、海女の実演をご覧になるなど、房総半島の春を楽しまれた（１９６４年３月２２日）。

１９６４年５月３１日、東京競馬場。９万人の人出、８億４千万円の売上と新記録を樹立した第３１回日本ダービーは、東西の精鋭２７頭が参加して一斉にスタート。ダイトウリョウがまず飛び出し、ウメノチカラ、シンザン、バリモスニセイと各馬一団となってスタンド前を通過、第４コーナーに入って期待のシンザンは外にまわって先行グループを追い上げる。いよいよホームストレッチ、各馬一斉にムチが入る中、ウメノチカラ、シンザンが一気にスパート。シンザンはたちまちウメノチカラをかわし、一馬身１／４引き離してゴールイン、底知れぬ力を見せつけた。これでシンザンは賞金９００万円を獲得、皐月賞、ダービーを制覇して、３冠馬の最後の壁・菊花賞に挑むことになった。

４月のご入園を前に浩宮さまが４０人のお友達と一緒に学習院幼稚園のひな祭りに招かれた。桃の節句のお菓子をおみやげに頂いてご機嫌な１日を過ごされた。６１歳になられた皇后さまは最近、伏見天皇の書かれた白楽天の詩集を手本に習字に打ち込んでおられる。義宮さまのご婚約も決まり、池田厚子さんの病気も回復して、皇后さまは喜びに包まれた毎日を送っておられる。

第４６回通常国会は池田勇人氏にとって後味の悪い幕切れとなった（１９６４年６月２６日）。政局の焦点は間近に迫った自民党総裁選挙。池田氏は３選を目指す決意をしたが、党内の実力者である佐藤栄作氏と藤山愛一郎氏が選手交代の時期だと相次いで立候補を表明、総裁の椅子は三つどもえの争いとなった。

佐藤栄作、河野一郎両氏とともに後継総裁の候補の１人、藤山愛一郎氏が４０日間の海外旅行から帰国した。藤山氏は空港ではノーコメント。自民党本部では川島正次郎副総裁と三木武夫幹事長が手始めに党内の意見聴取（１９６４年１０月３０日）。ついで首相経験者の石橋湛山、岸信介、吉田茂老人にもご意見を拝聴したが結果は話し合いで決めようという意見ばかり。臨時国会まであと僅か、３人の候補者をどう纏めるか逆に試される立場となった川島と三木。次期総裁の選考は秒読みの段階に入った。

２０世紀最大の画家、パブロ・ピカソの７０年の芸術を一堂に集めたピカソ展が毎日新聞社の主催で１９６４年５月２３日開かれた。会場の国立近代美術館には池田勇人首相をはじめ大平正芳、佐藤栄作の各大臣や画家の東郷青児氏、岡本太郎氏、作家の川端康成氏、武者小路実篤氏ら多数が観賞にやってきた。ピカソの傑作１４８点が一度に見られるのは世界でも初めて、力強い作品は来場した全ての人たちに深い感銘を与えた。

発生から半月、大地震の爪跡が残る新潟市内。重油まじりのドロ水は一向に引く気配が無い。火と水に追われた被災者たちは今もなお仮住まいで雨露を凌いでいる。１日も早く自分の家が欲しいというこの人たちの願いを知った会津若松の建築業者たち７８人は、無料で復旧工事を手伝うことを申し出た。新潟駅に降り立った一行の前に広がる惨状。４百戸の仮設住宅を建設中の現場に到着、休む間もなく仕事にとりかかった。若松の大工さんたちは新潟の復興に一役買って一生懸命である。（町から村から）