１２月１日、政界の粛正を旗印に立候補した藤山愛一郎さんが、絶対優勢を誇る佐藤栄作さんにどの程度迫るか。注目の自民党総裁選が１９６６年１２月１日行なわれた。佐藤さんの再選は確実とあって、興味は批判票が３分の１の壁を破るかどうかに集まった。投票の結果、佐藤さんが２８９票を獲得して再選した。藤山さんはさっさと退場したが１７０票の批判票が出たことに気をよくしてか会心の笑み。苦い勝利の佐藤さんは万歳の声にも緊張の面持ち、こうして国民注目の黒い霧に答える第３次佐藤改造内閣がスタートした。政治は実行第１でと佐藤さん。しかし「期待できぬ」「興味無し」「信頼感がない」と町の声は意外に冷たい。

浜名湖の畔に特別養護老人ホーム「十字の園」がある。ここには身体が不自由で身寄りのない老人１００人が収容されている。熊さんこと、アイヌ人の砂沢宇一郎さんもその中の１人。熊彫りの名人とうたわれた人だが、中風で手足がきかない。もう１度熊が彫りたい、熊さんは燃えるような執念をかきたてて両手の回復に全力を尽くした。そして２年、一時は医者も見放した手足が自由に動くようになった。湖畔に立って遠いふる里、石狩の原野を思いながら一心にムックリ（アイヌの伝承楽器）を鳴らす。熊さんの腕の記憶は徐々によみがえった。ノミは再び生命を取り戻し、熊さんは彫り上げた熊を、病床の老人や看護婦に贈ってその喜びをわかち合った。熊さんは復活した！会心の作の出来る日が待ち遠しい。

魔の金曜日、１９６６年３月１１日未明、群馬県水上温泉の菊富士ホテルから出火、団体客３０人が焼死した。犠牲者は農閑期の慰安旅行で前夜ホテルに泊まったばかり。故郷の茨城県御前山村に変わりはてた遺体が帰って来た。亡くなったのは殆んど農家の主婦で、年１度の楽しみにしていたタバコの収納金を積み立てての旅行会であった。ふだん事故ひとつ無い平和なこの村に降ってわいたこの惨事、村は悲しみのどん底に突き落された。

小笠原墓参団が２２年ぶりに訪れた父島の小曲墓地は荒れ放題のまま、人々は墓を清掃しやっと帰ってきたと夢にまで見た帰島を報告した（１９６６年５月２４日）。父島大根山墓地での合同追悼式では、１日も早く共に暮らせる日が来るよう祈った。島の８年制小学校では、日本語の授業がわずか週１時間、これでは若い世代が日本から遠ざかるというのが島の人の嘆きだ。２００人足らずの島の人達は、日常品の全てをグァム島から輸入、日本品は高くてなかなか手に入らぬのが悩みの種。日本への関心が高まるばかりの現在、もっと自由に往来したいというのが、戦後２０年星条旗の下に暮らして来た島の人達の願いである。

長かった北海道の冬も終わりを告げ、網走市外の濤沸湖の水もぬるみはじめた。この湖には毎年千羽を越す白鳥がシベリアからやってきて、一冬を過ごす。北の空めざして飛び立つ白鳥たち、さようなら。寒くなったらまた帰っておいで！（鳥の話題）

端午の節句を祝って埼玉県庄和町に、２５０年来伝わる大凧づくり。特製の和紙１５００枚を使い、縦１５横１１メートル、重さ８００キロという日本一の大凧だけに糸目も１２０本というマンモスぶり。１９６６年５月３日、大小１４の凧が町中を練り歩き千葉、埼玉の県境を流れる江戸川堤へ向かう。百畳敷もある大凧だけに、中々上がらない。やっと上がったと思ってもすぐ落ちてしまう。今度はうまくいったものの、風が強くて引きずられそう、１０００メートルの上げ糸も足りないほど。うまく上がって大喜びの人々、早速祝い酒で１０００メートルが上がる。ところがあいにくの雨で凧は大破れ。滞空記録わずか１時間足らずで日本一の大凧は無事、地上に戻った。

１９６６年１１月３日、航空自衛隊の埼玉県入間基地で空のページェントが開かれた。３０００メートルの上空から肝を冷やすスカイダイビング、あいにくの風で着地に悪戦苦闘する。この日のハイライト、ブルーインパルスのアクロバットは５色の煙をいっせいに引きながら、見事な編隊飛行を披露。様々な妙技で、澄み切った秋空に美しい煙の花模様を描いた。

岡山平野を流れる旭川ぞいに、心身障害者の実情を知って、この子らのために特別の医療機関をと、私財をなげうって作った社会福祉法人「旭川荘」がある。昭和３２年肢体不自由児の「旭川療育園」が、ついで知的障害児の「旭川学園」、更に不幸な星の下に生まれた子供たちのために乳児院が開園。昭和４０年には重症の子どものための施設も完成した。そして今度はその２つの障害を合わせ持った、重症心身障害児の収容施設を作ろうという声が岡山市民の間に高まってきた。これを聞いた県もようやく本腰を入れはじめ、国からの補助金と合わせ８５人を収容できる施設を来年４月完成することになった。１０年前岡山市の医師、川崎さんの蒔いた１粒の麦はこんなに大きく成長したのだ。（町から村から）