東京杉並に住む後藤佳彦さんは今年７０歳、昭和１４年徳島から上京して以来、紙芝居ひとすじに生きてきた。一時は３０００人も居た都内の紙芝居屋さんも、今は１０人足らずになってしまった。親方の所で毎日ネタを取り替えると、子供たちの待ついつもの場所を回る。どこでもテレビとは違った面白さがあると４、５０人の常連が待っている。そんな中で後藤さんの名調子が流れる。後藤さんは「私が自転車に乗れる限り、子供が好きだから続けられる限り続けます。」と好物のダンゴを昼食がわりにほおばりながら目を細めていた。

空前のスキーブームで賑わう上野駅、発車６時間前からもうこの有様。座れるか座れないかそれが問題。このラッシュを緩和するため国鉄ではスキー、スケート専用の臨時列車を運転、ゆっくり座って行ける上に旅館の予約もいたしますと至れり尽くせりのサービス。スキー場へ着いたもののロープウェイは長蛇の列。そこへ目をつけたのがヘリコプターの新商売。世はまさにスピード時代。ただし、値段の方もデラックス。ゲレンデは色とりどりのラッシュアワー。神風スキーヤーが我がもの顔にとばす。スキーラッシュは深夜まで続いている。

子供達の間で、今怪獣がすごいブームを呼んでいる。あるデパートで怪獣の催しをしたら屋上いっぱいに子供が集まる騒ぎ。ブームの本家であるＴＶ映画製作社では、毎週１匹の怪獣を登場させようとニューフェイスの募集に頭を悩ませている。怪獣の好きな大人の集まりだけにみんな大張り切り。このブームに乗り遅れるなと、玩具メーカーは怪獣の人形を１日２万個というペースで作ってばらまいている。怪獣の売り場はどこも目の色を変えた子供達でいっぱい、泣く子と怪獣には勝てない、親のしぶい顔に比べ子供は大喜び、だがこのブームはいつまで続くのだろう。

１９６６年７月１日、沢田美喜さんら社会に大きな功績のあった人々に、初の総理大臣顕彰が贈られた。沢田さんは戦後捨てられた子どもたちの母になろうと、昭和２２年自費でエリザベス・サンダースホームを開設、以来６００人の子供を育ててきた。物資の無かった頃、たとえ自分が飢えても子供たちには十分食べさせたいとかけずり回った時代が一番苦しかったそうだ。その間しばしば渡米し、養子として縁組したものは３００人にのぼる。今年も３４人の子供たちと、鳥取県岩美町の臨海学校にやってきた。沢田さんの今後の仕事は、ブラジルに作った聖ステパノ農園を子供たちの永住の地にすること。今年６４歳、若々しいファイトをにじませて子どもたちのために一生を捧げる沢田さんである。

２０年に１度の伊勢神宮の遷宮ご造営に使われる用材のお木ひきが、戦後初めて復活した。１９６６年４月１２日、木曽の国有林から切り出された大木は、木遣り音頭にあわせてのどかに五十鈴川をさかのぼり、めでたく内宮に運び込まれた。翌日は勇壮な陸びき行事。古式豊かなお木ひき車に木を積んで、旧参宮街道を外宮に向かう。綱を引くもの５０００人。沿道を通るお木ひき車は威勢のいいかけ声にのって、次々と外宮正面に勢ぞろい。この行事は５月まで続き、伊勢の町はお木ひきムードに沸き立っている。

フランス・パリのセーヌ河で、世界で最も厳しいといわれるモーターボートレースが行われた。６時間にわたって覇を競うこのレースは、セーヌ河を上り下りする耐久レース。９０隻が参加して苦しいレースを展開したが、最後まで完走したのはわずか４０隻。イタリアのモリナリスコッティ操縦の１１０馬力のカタマラン艇が優勝した。

大安吉日の１９６６年１１月１３日、羽田空港は新婚旅行へ旅立つ人で華やかなムードに溢れていた。それから１０時間後、全日空オリンピア号が松山沖で墜落の知らせに空港は重苦しい空気に包まれた。遭難した５０人の中には、１２組の新婚夫婦が含まれている。ＹＳ−１１は戦後初の国産旅客機で、安定した性能と短い滑走距離は高く評価され、アメリカから７３機の注文を受けたばかり。遭難現場では空と海から大規模な捜索が続けられているが、時化のためはかどらず、２９体がいまだに冷たい水の底に沈んでいる。

環状７号線と甲州街道が交差する東京世田谷の大原交差点は、１時間７０００台の車が通る日本一の難所。住民たちの間にはこのところ喘息の症状を訴える人がめっきり増え、厚生省は付近一帯を排気ガス汚染地区に指定した。危険の限界すれすれまで空気が汚染されているという調査の結果に、住民の健康診断を行ったら、７割近い人が排気ガスの影響を受けている恐るべき事実が判った。根本的な対策がないまま、住民は酸素吸入器などを買い込んでささやかな自衛体制。戸を閉めてもなおガスとほこりが忍び込む。大原交差点は今日も排気ガスの中に煙っている。