東京港区に住む石田昇さん（６５）は、５０年を琵琶づくり一筋に生き抜いて来た。かつて全国に５０人もいた琵琶師は、時代の流れとともに減って今では石田さん唯１人となった。薄暗い仕事部屋に奥さんと２人で働く石田さん、一時１０人もいた職人も１人去り２人去ってこの道を継ぐものは１人もいない。「琵琶が作れるのもあと２、３年だろうか」と淋しく石田さんは語るが、琵琶の音にとりつかれたように又仕事にかかる。手も震え目もかすみがちだが、鍛えぬいた５０年の勘でノミが独りでに動く。こうして「三世不識」の銘を入れて、世に送り出した琵琶は２万を越す。最近嬉しいことに琵琶の愛好者が増えてきた。今日も寄席の片隅で最後の琵琶師、石田さんは美しい琵琶の音にききほれている。

日本の将来を若人の手でと、この程「明日を築く青少年のつどい」が１９６５年２月１９日、日本武道館で開かれた。出席した全国都道府県各青少年団体の代表１万２０００人から選ばれた６人が、佐藤栄作首相を囲んで活発な意見を発表した。福祉施設の貧弱さを指摘されたり、乱闘政治家では若い人の手本になれないと痛烈な批判も飛び出し、首相も「お叱りごもっとも」と頭を下げる一幕もあった。この大会は若い人達に誇りと責任を持たせ、青少年の奮起を促そうという国民運動への第一歩である。

東の空が白みはじめたころ、一番太鼓と共に１０万の人波をかき分けて、博多祇園山笠の最後を飾る追い山が、威勢よく櫛田神社に繰り込む。各町内から繰り出したカキ山は、次々と境内を一周、その早さを競う。今年は５０年ぶりに大きな飾り山も姿を見せた。博多の町が目覚める頃、カキ山は相次いで境内を飛び出し、５キロ離れた須崎町の決勝点目指してつっ走る。うっとうしい梅雨も明けて祭りは最高潮。祭りが終れば、博多の町は本格的な夏を迎える。

４才馬の日本一を決める第３３回日本ダービーに、１２万と記録破りの人が東京競馬場に押しかけた。馬券売り場は交通整理まで飛び出す大変なラッシュ。ダービーの売上だけで１８億円とこれも新記録。注目のレースは、スタートと同時にシバハヤがトップ、人気を集めたショーグン、ナスノコトブキらは苦戦。第３コーナーでは、２頭が接触して落馬という珍しい事故が起った。各馬最後の追込みで、直線に入って伏兵テイトオーが飛び出し、２位を大きく引き離してゴールイン。殊勲のテイトオーはシンザン、キーストンについで関西馬の３連勝を樹立、賞金１１９０万円を獲得した。

空の旅を楽しむ人で賑わう羽田空港。まるで国内旅行にでも出かけるように気軽に海外に飛び立って行く。香港もわずか３時間半、新幹線で東京〜大阪間なみの時間。出発から帰国までガイドがつきっきりで案内、言葉も不自由しない。香港の夜、海上レストランはさながら竜宮城へ来たような気分に誘い込む。旅行者はうっとりと百万ドルの夜景を満喫していた。

世はまさに美容体操ブーム。小桜葉子さんの教室には、新幹線で通って来る人もあって大盛況。こちらは元チャンピオン金子繁治が始めたボクシング美容、１日１００円という安さが人気を呼んで、ジムは近所の奥さんで大繁盛。一方アメリカ直輸入の美容機械を完備して、この程オープンしたのが東京ヘルスクラブ。ただし入会金は２０万円、月謝１万５０００円とゴルフクラブ並みのお値段。インド渡来のヨガの道場も大盛況。美容体操ウルトラＣ、チャスラフスカも顔負け。悩ましい“くの一忍法”そこのけ、ヨガ体操の基本ポーズ。精密な機械から、忍法まがいの美容術まで世はまさに美容体操ブームである。

「戸締りと同時に火の元を確かめて下さい」と春の陽気に誘われて外出する人々に呼びかける消防署。外出先で火の不始末に気付いた時すぐ消防署に連絡すれば、直ちに署員が家まで急行する。行楽シーズンを迎えて賑わう観光地。水上温泉の惨事を２度と繰り返すなと、消防署が目を光らせている。宿に着いたら先ず非常口を下検分、寝タバコには気をつけよう。昔の人の言「治にいて乱を忘れず」、くれぐれも火事にご用心。

東京山の手線のターミナル、池袋駅のラッシュアワー。駅員もテレビ室も後から後から押し寄せて来る人の波でてんてこまい。１日にざっと８０万人、東京駅を追い越して日本一の混雑ぶりに、係員は会社や官庁にお百度を踏んで時差出勤の呼び掛けに懸命。このままだと５年先には輸送能力がついていけなくなると、京浜東北線や中央線では複々線や高架線の工事が急ピッチ、しかし悩みの種は資金不足、約９００億円の政府出資が必要と頭の痛い国鉄、着膨れラッシュは当分続きそう。