師走の風が吹きはじめると、京都郊外の上賀茂の里ではまるまると太ったすぐきかぶらが顔を出す。独特の風味で全国に知られたすぐきかぶらのつけ込みは今が最盛期。大きな桶で１晩荒漬けされたすぐきかぶらは塩をどっさりまぶしてタルに漬け込む。てんびと呼ぶテコで重しを１週間かけ、かぶらの身を引き締める。こうしておいしい漬物が出来る頃、正月はもう目の前。

巨人３勝２敗で迎えたプロ野球日本シリーズ第６戦。４回裏、このシリーズの当り屋・柴田勲が、皆川睦男の１球目をホームランして先制の１点。ついで柳田利夫、森昌彦、土井正三と連続ヒット、南海外野手の暴投などでこの回３得点。これに対し南海打線は左腕、益田昭雄投手に押さえられ万事休す。巨人が８度目の優勝を飾った。最優秀選手は柴田選手。これで巨人・南海８度目の対決は巨人の７勝１敗と圧倒的な強さを見せた。

コケシのふる里、鳴子町は豊富な温泉が湧き出し東北でも１、２を誇る温泉地。農閑期に入ると近在のお百姓たちは、この町にある農民いこいの家にやって来る。これは県下の農民が１口千円を出資して作ったもので、１度に百人も入れる大浴場は自慢の種。また高血圧や神経痛の治療のための診療施設、またリハビリテーション設備も東北大学医学部の協力で完成、激しい野良仕事で痛めた手足も温泉療法で次第に機能を回復して行く。１日の費用は自炊で７０円から１５０円までで、毎日１０００人以上の利用者で賑わっている。療養とレクリエーションを兼ねた、おらがお国のヘルスセンター。（町から村から）

１４年ぶりの大雪となった札幌市の大通公園では、市民が雪の芸術に取り組み、大小６０余りの雪の像が次々と完成してゆく。ぼくらもやろうと、ろう学校の生徒が力作を作れば、大作は引き受けたと自衛隊も零下１０度の寒さをついて連日張り切っている。こうして開幕した第１７回雪祭りに、各地から観光客がどっとくり出した。義経ブームにのった五条の橋が人目をひけば、冬季五輪大会はぜひ札幌でと宣伝も抜け目がない。オバケが歩哨に立つ真駒内会場では３７万坪の広い演習場にマンモス雪像が勢揃い。しかしなんといっても人気を集めたのが、テレビマンガの主人公たち、子ども達は大喜び、雪祭りは３００万の人出で賑わった。（１９６６年２月１日から）

１９６６年６月２９日、とうとう上陸したビートルズ台風。日本のカメラマン諸君、出迎えご苦労。３万５０００人のお巡りさんが動員され戒厳令さながら。右翼も挨拶にやって来た。望遠鏡を取り出してなぜに届かぬこの思い、カメラマンもファンにカメラを取り上げられて仕事にならない。会場になった武道館（１９６６年６月３０日）は、江戸城始まって以来のものものしさ。４年間待ちに待ったビートルズ、３０分の演奏でまっすぐホテルへご帰還、ファンは全然近寄れない。憧れのビートルズを目の前にしてしびれちゃってしびれちゃって、私はもう歩けない。日本去る日、沿道のファンはただ涙あるのみ。台風一過、ああ私の恋人はもう帰ってこない。

この夏の内閣改造で、運輸大臣の椅子が転がり込んだ荒船清十郎氏は夢かとばかり喜んだ。しかし、余りの嬉しさに「ひとつ位はええじゃないか」と深谷に急行を停車させたのがひとつ位では済まされず、上野駅の地下食堂拡張問題や田中彰治との黒い噂、日韓経済閣僚会議に民間業者を連れて行ったことも暴露されてしまい、ついに更迭と決まった。荒船氏は同じ川島派の藤枝泉介氏に、大臣の椅子を明け渡した（１９６６年１０月１１日）。わずか７２日にして荒船氏は、大臣落第生となった。桐一葉落ちて天下の秋を知る。佐藤内閣への風当りはこのままでは収まりそうもない。

１９６６年２月１３日、第１５回別府毎日マラソンは１６１人という日本マラソン史上最高の選手が参加して別府駅前をスタートした。前半は寺沢徹ら主力選手が互いに牽制しあってスローペースで進んだ。鶴崎の折返し点は斉藤（日本鋼弦）がトップ、続いて寺沢ら４０人が１団となって通過。３０キロ付近でトップの斉藤が遅れ、寺沢、重松森雄、君原健二、岡部宏和、広島日出国、佐々木精一郎、沢木啓祐ら７人の激しい競り合いが続く。３５キロ地点、寺沢一気にスパート。必死に食い下がる佐々木を振り切り、史上初のマラソン４連勝は目の前。２時間１４分３５秒の大会新記録でゴールイン。２位岡部、３位君原、４位佐々木、６位までが２時間１６分台を切って日本マラソン界の層の厚さを示した。

２０年に１度の伊勢神宮の遷宮ご造営に使われる用材のお木ひきが、戦後初めて復活した。１９６６年４月１２日、木曽の国有林から切り出された大木は、木遣り音頭にあわせてのどかに五十鈴川をさかのぼり、めでたく内宮に運び込まれた。翌日は勇壮な陸びき行事。古式豊かなお木ひき車に木を積んで、旧参宮街道を外宮に向かう。綱を引くもの５０００人。沿道を通るお木ひき車は威勢のいいかけ声にのって、次々と外宮正面に勢ぞろい。この行事は５月まで続き、伊勢の町はお木ひきムードに沸き立っている。