１４００年の伝統を受け継ぐ大和瓦。中でも、あらゆる邪悪なものから家を守る鬼面は、鬼瓦として日本人の心に定着し、優れた工人によって想像性のある鬼面が棟を飾っている。◆小林章男は東大寺仏殿の鬼瓦復元をはじめ、数々の文化財の屋根を修復してきた。粘土を手で練りながら、ヘラひとつで頭の中にある百鬼百様の表情を一気に仕上げる。全国を訪ね歩き、瓦を熟知する瓦博士でもある。

昭和３０年のいなか町で起きた殺人事件。夫が刺殺され、不倫関係にあった男が背信の証言をしたことで夫殺しの容疑者となった妻の苦悩を描く。◆伸江は小学生の和夫を連れ子に、行商人・平造と再婚した。平造はヤクザ者で酒癖も悪く、毎晩伸江に暴力をふるう。伸江は近所のクリーニング屋で働き、そこの主人の石田とは不倫関係にあった。石田は３年前に妻を亡くしており、息子の信一も和夫と仲がよい。ある日、平造が包丁で胸を刺されて死んだ。死体のかたわらには呆然自失した伸江がいた。

正倉院に現存する世界唯一の古代工芸品・撥鏤。象牙を染め特殊な彫刻で文様を描き、彩色を施す。唐の儀式用の物差しとも、楽器のばちであるとも記録にあるが、シルクロードの影響が濃厚で華麗な工芸品の製作技法はなぞに包まれていた。吉田父子二代にわたる５０年のたゆまぬ追究の末、見事に現代によみがえらせた。◆『紅牙撥鏤尺』復元に至るまでの研究と、天平の美との接点を探る。

指紋押捺を拒否したまま米国へ留学、日本へ帰国しようとして再入国を拒まれた在日韓国人３世のケースを通して、在日韓国人・朝鮮人と日本社会とのかかわりを見つめ直す。◆アメリカの大学に留学していた北九州市在住の女性は、１９８８年５月に留学期間を終えた。しかし指紋押捺拒否者の一人だった彼女は出国の際に再入国不許可処分を受け、法的には協定永住資格を失って一般外国人と同じ身分になっている。処分を不当とする彼女はビザなしでの入国を試みるが拒否される。

中国・江西省にある廬山は禅宗とゆかりの深い天下の名勝。１３１３年、美濃の山中にこつ然と廬山の風景が出現した。夢想疎石（１２７５〜１３５１）が造った臨済宗の名刹・虎渓山永保寺とその庭園が自然に調和して、今も当時のままの姿を残す。◆戦乱の世にいずれの勢力からも敬愛され、『夢中問答集』を著し、平和を説き続けた夢想疎石。その作庭の妙は、後に西芳寺や天竜寺の名勝を生む。禅の心を貫いた名僧、疎石の生涯の遺産をたどる。◆【国宝】永保寺の観音堂、開山堂◆【史跡・特別名勝】西芳寺庭園、天竜寺庭園◆【名勝】永保寺庭園

山形県庄内平野の一画にある農村で暮す姉妹。家の納屋に住む中年男を２人は愛してしまう。◆両親のいない美しい姉妹、１８歳の理那（姿晴香）と１７歳の恵那（石田えり）は今まで面倒を見てくれていた伯父・巻三（谷村昌彦）たちが札幌に移住することになり不安で仕方がない。巻三は理那の家の農作業をやってくれる比羅夫（三國連太郎）という４０半ばの男を連れて来た。男は家の納屋に住みつき姉妹の暮らしを助ける。６年が過ぎ、年頃になった姉妹はいつしか比羅夫を愛していた。

太平洋戦争中にアッツ島で撮影された日本兵とアリュートの少年の写真に映った２人を追跡、日本とアメリカのあいだで翻弄された少数民族の知られざる戦争を描く。◆アリューシャン列島にあるアッツ島は、太平洋戦争で日本軍が最初に玉砕した島として知られる。この島には数十年前からアリュートたちが静かに暮らしていた。占領した日本軍とは交流があり、若い兵士に背負われた少年の写真は１９３２年（昭和１７）に従軍カメラマン杉山吉良が撮ったものだった。しかし日本軍首脳はアリュートが米軍に協力するのをおそれ、全員を小樽へ抑留することを決定する。

屋久島に住む詩人の山尾三省さんが、生活信条のよりどころともいえる「十便十宜図」と対面。自然と人間との関わりを再確認する。◆「十便十宜図」とは、人里離れた山での暮らしはさぞかし不便だろうという問いかけに、その暮らしがいかに便利であるかを答えた１７世紀の中国の詩をもとに、大雅と蕪村がそれぞれ１０枚の画帖に描いたもの。江戸時代半ばの作品である。◆東京に生まれ育った山尾さんは屋久島の自然にひかれて１９７６年（昭和５１）に移り住み、自然農法を学びながら屋久島の自然の中で生活している。自然と人間の営みを描いた「十便十宜図」に共感し、教えられる点も多いという。