静まりかえった秋の武蔵野の雑木林を描いた、菱田春草の代表作「落葉」の誕生に秘められた、画家の内面のドラマを描く。◆春草は１８７４年（明治７）長野県に生まれた。１５歳のとき画家を志して上京、翌年東京美術学校に入学する。のち、没骨描法を試みるなど、日本画に新境地を拓いた。１９０８年に視力が哀えはじめるが、「目を病んで不自由になり思いがけなくも自然に対する心の目がひらけた」と言い、１９０９年に大作「落葉」を制作する。

中国安徽省南部の一大山塊“黄山”はその奇観から仙境とまで讃えられ、古来多くの山水画に描かれてきた。黄山を知らずに山水を語るなとまでいわれる名山に森本哲郎が挑む。◆上海から川をさかのぼって屯渓市に入り、ふもとの村から深山へわけ入る。海抜１８１０メートルの天都峰と１８６０メートルの蓮華峰の二大名峰をはじめ、７２の奇岩名峰をつらねる黄山。切り立った山に造られた胸をつくような石段は「百歩雲梯」と呼ばれる名勝。しかし３万６千段を登るのはまさに難行、息をきらせて登りつめると雲海の中に峰々の聳える絶景が目にとびこむ。

日本人の生活の中で古くから親しまれた竹は、日用品の細工物としての印象が強く、美術工芸としての認識は浅かった。しかし、正倉院の宝物には竹工芸が残っており、伝統工芸の高い技術が証明されている。竹の繊細にして優美な編みの交差が、美しい光と影を演出する。◆油絵志向だった飯塚は、名人だった厳父に鍛えられ、この道を継ぐ。竹工芸でただ一人の人間国宝である。

日本経済新聞紙上で１９５７年（昭和３２）３月に始まった「私の履歴書」のテレビ版。一時代を築いた人物が出演、自らについて語る。（１９８７年４月８日〜１９８８年９月２８日、全７８回。出演者の肩書・年齢は放送当時のもの）◆第１６回は日本相撲協会理事長・春日野清隆さん（６２歳）。

自らの人生のスタート点となり、思考の原点となった郷里と母校。各界の第一線で活躍する人々がその母校の教壇に立ち、後輩たちに自らの培ってきた“知識”を伝えようとするとき、そこにはどんな授業が展開されるのであろうか。その姿を追いながら、知ることの楽しさ、学ぶことのすばらしさを伝える。全３回。◆第２回は、瀬戸内の人口４千人ほどの広島県生口島で生まれ育った日本画家・平山郁夫さん。小学校時代に絵心にめざめた平山さんが描いた、当時の瀬戸内の島々の絵はいまも手元に残してあるという。こうした絵を使いながら、広島県豊田郡瀬戸田町立瀬戸田小学校の子どもたちに図画の授業を行う。

琉球王国５００年の歴史の中で、中国との冊封体制下における政治・経済・文化の中枢であった「首里城」の素顔を描く３回シリーズの導入編。首里城が築かれた歴史背景と周辺施設を紹介する。金城キクスペシャル。◆１３７２年に中国と貿易を開始し、海洋に浮かぶ地域の特性を生かして日本・朝鮮との橋渡しの役目を果たした琉球王国。王統７代・第２王統１９代の王朝を維持し、中国からは王の位を許され、冊封使による即位式が行われた。また日本開国の際にはアメリカ・ペリー提督の足場になり、琉球とアメリカのあいだには琉米修好条約が結ばれている。１４世紀末から１５世紀初頭に建てられた王城・首里城は４万６千平方メートルの偉容を誇っていた。

挫折を乗り越えて大きく飛躍し、捨て身で語る文楽・竹本越路大夫の芸に対する執念を聞く。◆義太夫の大夫と三味線は夫婦のようなもので、相性がある。相三味線に二代目野澤喜左衛門を得た竹本越路大夫は、逆境を乗り越えて自らを励ます。客をうならすような浄瑠璃を一生に一度語ってみたいと執念を燃やす。

放射線治療でがんの征圧に貢献しながら、自らもがんに倒れた塚本憲甫の生涯を描くドラマ。◆昭和４８年（１９７３）、国立がんセンター総長の塚本は、胃の異常を感じて検査を受けた。彼は胃がんで、余命も短いという検査結果は、娘婿の哲也だけに知らされた。しかし、がん治療の権威である塚本は、自らの症状を覚っていた。手術の後、家族と自宅で正月を迎えた塚本の脳裏に、若き日の思い出が甦る。大正１２年（１９２３）、高校生だった塚本は音楽がきっかけで年子と交際を始め、病弱な年子のために医師になろうと決意する。