大江山の鬼退治の伝説を基にした長唄の大曲「綱館」（つなやかた）を明日の邦楽界を担う若手演奏家達の熱演で鑑賞する。羅生門で渡辺綱に片腕を切り落とされた鬼女が綱の伯母に姿を変え、その腕を取り返しに来るという内容で、１８６９年（明治２）に三代目杵屋勘五郎が作曲した台本が原型となっている。番組冒頭、大阪の堂島や兵庫県川西市に今も遺る綱ゆかりの地、神社などや、同じ主題の「茨木」（いばらき）との相関関係を解説し、末尾では渡辺保が鬼女伝説の現代的意味を語る。

１９９２年夏から翌年春にかけての北アルプスの四季を主に長野県側からとらえ、人々の暮らしを織り込みながら「映像詩」として構成したドキュメンタリー。◆冬は北アルプスのシンボル槍ケ岳や大天井岳、燕岳、小蓮華岳を撮影、夏は槍ケ岳の開祖播隆上人の登山ルートをたどって頂上まで登った。雪渓や地塘、お花畑や野生動物など独特の自然を四季にわたり記録するとともに、地元の松本平や安曇野に暮らし、北アルプスを“心の山々”とする人々の表情を季節感と共にとらえる。

日本文学の名作を、当代一流の演出家が競作するシリーズ。この回は特別企画として樋口一葉の「にごりえ」を久世光彦が２時間で描く。月曜特集・特別企画。◆明治２８年。新開地の「菊の井」の酌婦・お力（田中裕子）は売れっ子の一枚看板。布団屋の主人源七（柄本明）は妻子のある身でお力に入れあげたあげくいまは長屋住まい、妻の内職に頼って暮らしている。お力は新開地には不似合いな紳士・結城（細川俊之）に出会って惹かれ、源七との過去を打ち明けた晩ついに結ばれる。かたや源七はお力とのことが原因でとうとう妻子に逃げられ、菊の井にお力を訪ねるが門前払いされる。

大工の棟梁、又五郎の若い衆が自分たちの仕事ぶりをけなす男をとっちめていると、又五郎がやってきて仲に入る。その男も大工と聞き、又五郎は何かの役に立つかもと家で預かることにする。男は名も明かさず寝て食べるばかりの毎日だったが、彫り物ならと二階にこもって彫り上げる。実はこれが運慶の彫った恵比須さんに対応する左甚五郎の大黒さんであった。

　ここは、明治初期に活躍した左官職人・入江長八（伊豆の長八）の漆喰鏝（こて）絵を展示する美術館である。潮風の強い伊豆の西海岸では、漆喰で塗り固めたなまこ壁の家や蔵が多く建てられた。長八は、江戸で狩野派絵画を学び、顔料や膠（にかわ）の工夫を重ね、繊細な鏝先から西洋のフレスコ画にも匹敵するといわれる素晴らしい作品を数多く遺している。日本伝統の左官職人の技術を今に伝える。（松崎町）

１０年前のオートバイ事故をめぐって、若く美しい女の秘められた過去と事故の謎を解き明かす。札幌・日高海岸、オホーツクと北海道横断ロケで描く心理サスペンスドラマ。原作：原田康子。◆弁護士・江本忍（風間杜夫）は、掃除婦をしている涌谷祐子（かたせ梨乃）がドライブウェイで若いライダーたちを挑発しているのを見て興味を抱き、彼女に近づく。深い関係になった彼女の過去を探るうちに、１０年前の北の岬でのオートバイ事故がうかびあがる。それを調査すればするほど彼女が殺人を犯したと想えてくるのだが、江本はすでにこの危険な女の虜になっていた。

３０年前に別れた女房を迎えに行く父と息子の胸のうちを描く。◆大介は３年ぶりに父の平吉から連絡を受けた。平吉と大介を置いて島村という男と逃げた母・雛子を迎えに行こうというのだ。島村が死んでからは木曽のサナトリウムで養生しており、いまは身寄りもいないらしい。久しぶりにあった父子はぎこちなく会話を交わすが次第にうちとけていく。大介は自分たちを捨てた女だと母を非難するが、平吉はずっと忘れられなかったという。２人は翌日その母を訪ね木曽へ旅立つ。

　人間国宝、芹沢?_介の作品を集めた日本で唯一つの型染め専門の美術館が、弥生式住居の復元で知られる、登呂遺跡公園の中にある。芹沢?_介（１８９６～１９８４）は、静岡市の出身。それまで職人の分業による作業であった染色を一人の作家の手による芸術作品にまで高めた。大胆な色使いと単純化された形、着物、帯、屏風、のれんなどの作品に、伝統とモダン、抽象と具象が自在に交錯する。芹沢の独特な世界である。（静岡市）