「二人猩々」は能の「猩々」を長唄にとり入れ、１９２０年（大正９）に六代目尾上菊五郎と七代目坂東三津五郎が歌舞伎座で演じたものであり、「巽八景」は、深川の辰巳芸者の色気に溢れたほろ酔いの風情を描いた曲である。「高坏」「棒縛り」「藤娘」「貴撰」等々、酒にまつわる曲は枚挙にいとまない。渡辺保は、歌舞伎の所作には日常生活の物真似が多く、それにより虚構の世界に現実味を与え、さらに、”酔った振り”で、次元の違う昂揚した状況を表現できる利点を指摘している。

世界各地の食材・食文化を取材し、食べ物がいかに民族の精神を作り、文明の質を決定してきたかを明らかにするシリーズ。（１９９４年１月１日〜１月６日放送、全４回）◆第４集「雑穀」。乾期には一滴の雨も降らずすべての草が枯れるアフリカ・サバンナ。ここに起源を持つ多様なイネ科植物は、種子が小さくて動物のえさにならず人間のために残されたかのような植物資源であった。アフリカ西海岸の国・トーゴで、さまざまなイネ科植物を食べ物に変えてきたランバ族を中心に取材、サバンナで７千年に渡って営まれてきた穀農文化に人間と食の原点を探る。

２１世紀には世界一の経済大国になるといわれ、世界の注目を集める中国。驚異的な経済発展と社会矛盾を同時に抱え、変革の波に洗われる中国全土を取材し、中国社会の深層を描くシリーズ。（１９９４年１０月９日～１９９５年９月１０日、全１１回）◆１９８９年、上海では５０～７０年の期限付きで土地使用権の売買が許可された。この土地政策の大転換が生んだ膨大な利益で、高層ハイテクビルの建設など都市開発が急ピッチで進んでいる。一攫千金の夢を追う不動産業者、押し寄せる華僑資本家や外国資本家、上海を東洋のマンハッタンにともくろむ指導者など、夢の数々が錯そうする巨大都市・上海の激変を描く。

美貌を、手腕を、悲運を語り継がれる数々の静岡女。源三位頼政と結ばれ、美女桜に名を残す悲運の女性あやめの前、源頼朝の妻で彼の死後は尼将軍とも呼ばれた北条政子、戦国の世に今川家に嫁いで傾いていく領国を支えた寿桂尼、国策の犠牲になった唐人お吉。それぞれの女性の生き方について探る。

１３年前に夫の浮気が原因で別れた熟年夫婦が、息子夫婦の巻き込まれた事件によって再会を余儀なくされる。事件をとおして別れた夫婦がもう一度お互いを見つめ直し、愛情を取り戻していく物語。（１９９４年１０月１５日～１０月２９日放送、全３回）◆臨月の美保（原田知世）は、電車の中で見知らぬ男・川田（川原和久）に足をかけられ転んでしまう。夫の哲也（大鶴義丹）は、謝れと迫るが、川田は知らぬふり。川田に殴りかかった哲也は、ケガをさせ逮捕されてしまう。哲也の父親・史郎（緒形拳）を、別れた妻の奈津（岸恵子）が１３年ぶりに訪ねてきた。息子が逮捕されたと聞き、会いにきたのだ。

中国残留婦人の戦後の軌跡とその心情を追いつつ、親の帰国・日本への二世たちにわだかまる複雑な思いを描く。そして戦争に翻弄された５０年の歳月がもつ重さと残酷さを訴え、帰国問題の深刻な観点を提起する。◆１９９３年９月、身元引受人のないまま日本に強行帰国した中国残留婦人一行の中に、１７年前に一時帰国したことのある長野県出身の宮崎けさみさんがいた。彼女は故郷の肉親に引き受けを拒否され、第三者の特別身元引受人によって永住が可能になった。その彼女が、亡くなった中国人の夫の納骨のため再び中国を訪れることとなった。

アンコール遺跡群の中でもっとも優れた建築物といわれるアンコール・ワットとカンボジア民衆との深いつながりを、「さとうきび上人」と呼ばれて民衆から慕われているある仏教徒を通して探る。

『鵺』は平家物語にある源頼政の鵺退治の話がテーマで、鵺退治を再現する華麗な演技と、その裏にある悲哀感が見どころである。◆旅の僧が一夜の宿を求めて川の中の御堂へ案内される。やがて鵺の亡霊が現れ法力で救ってくれと頼み、やぶの中へ消えていく。鵺とは頭が猿、尾が蛇、手足は虎に似た動物で、能としては写実的な動きの多い曲である。◆副音声は英語