中国南部の貴州省に暮らす少数民族・苗（ミャオ）族の祭を訪れ、電気も水道もない暮らしの中で明るく育つ少女の姿を通して、現代の日本人が失ったものは何かを描く。◆中国最後の秘境といわれる貴州省では２０以上の少数民族が暮らしている。なかでも苗族の暮らしは、万葉の頃の日本人と多くの共通点をもっている。旧暦の６月１９日、貴州凱里市の郊外にある香炉山に若い男女が集まり、詩を歌いかけながら恋人を探す“パーポージェ”という祭りが行われる。この祭りに加わる少女・ウォン・ナ（１７歳）を中心に、苗族の村の暮らしやしきたりを追う。

岡山県阿哲郡神郷町釜村に住む農民作家、太田忠久さんの生活を通して、日本の農業政策を問う。◆日本農民文学賞を受賞した太田さんは作家であると同時にこの村に代をかさねてきた農民でもある。その作品は、いずれも日本の農家のおかれた厳しい現実を徹底したリアリズムで描いたもので、転作・減反などの農政にゆさぶられている過疎の山村の現実そのものでもある。両眼を病に冒され、原稿を書くことさえおぼつかなくなってきた太田さんの暮らしを追う。

日本経済新聞紙上で１９５７年（昭和３２）３月に始まった「私の履歴書」のテレビ版。一時代を築いた人物が出演、自らについて語る。（１９８７年４月８日〜１９８８年９月２８日、全７８回。出演者の肩書・年齢は放送当時のもの）◆第６５回は友禅染色家・森口華弘さん（７８歳）。

京友禅と加賀友禅を巧みに融合させる友禅作家・羽田登喜男。新しい感覚を盛り込んだ独特の文様を創造し、友禅に新風を吹き込む。モチーフは「おしどり」。仲良く、めでたいこの鳥を写生し続け、意匠に多く用いる。作品『遊鳥』の小下絵から糊置き、色付け、染めまでの、丹精の日々を追う。◆イメージに従い自在に描かれる、匂うがごとく美しい絵模様の製作風景と数々の作品から、技の極致を探る。

近世建築最大のモニュメント、日光東照宮。装飾の限りを尽くし、けんらんを極めた美の凝縮。すき間なく埋めつくし過剰とも思える装い。俗悪と評されながら、それを打ち消す光輝あふれる風土との調和。徳川政権安定のため三代家光が費用お構いなしと巨額の財をつぎ込み、一大国家事業として築いた権現造り。◆関東の北東の果て、厳しい気候の中で寸分姿を変えず風雪に耐え抜いた極彩色の社は、家康の関東鎮護の願いを残して静かに眠る。【国宝】東照宮の陽明門、正面及び背面唐門、透塀◆【重要文化財】久能山東照宮、世良田東照宮、神橋〔二荒山神社〕、東照宮縁起〔東照宮〕

地唄一筋に７０年。努力と精進の道のりを、盲目の人間国宝・富山清琴に聞く。◆富山清琴の弾き語りの代表曲『荒ねずみ』を聞くと、即興が多く入っていて、作曲の才能がうかがえる。泣いたり笑ったりができない地唄の表現は難しい。「心で弾いて指で（糸を）抑えず、耳で抑えろ」が富山清琴の地唄の真髄である。

日本刀の柄元にある小さな金具「はばき」。刀身を支え、さや走りを止め、刀身を保護する重要な役目を持つ。一寸にも満たない刀身金具に実用性と装飾性があり、武将たちが意匠を凝らし存在の証とした柄に、白銀師たちも仕事の印として精魂を込めてきた。◆習熟した指先が自在に動く江戸職人・赤野栄一の気負いのない人柄と技の中に日本刀の奥深い美がひっそりと隠されている。

冷たく澄んだ水の川底に住むトビケラの幼虫は、種類ごとに異なった生活を営んでいる。それぞれの一風変わった巣づくりから、成虫になるまでの意外な生態を追う。◆川底の石をひっくり返すと、枯葉のかたまりが出てくる。その中に隠れ住んでいるのがトビケラの幼虫。日本には約３００種のトビケラがいる。小枝を切り揃えて束ねたような巣を持ち歩くトビイロトビケラ、流れが早く石の多い場所には小石を固めて巣にするニンギョウトビケラ、クモのように石のあいだに網を張るヒゲナガカワトビケラなど。やがて蛹をへて成虫となり、水面近くを群れ飛ぶ。