１９９３年、画家・杉本健吉のアトリエには、木を彫るノミの音が絶え間なく響きわたっていた。音が途切れるのは、画伯がアトリエを出て様々な場所へ出向く日だけであった。遙かな旅と休みなく続けられた創作のなかで、８８歳の画伯が見つめていたのは何だったのかを描く。◆１９９３年９月、杉本画伯は米寿を迎えた。この年、画伯は３２年ぶりに沖縄を訪れたほか、中国・北京での「新・平家物語」の挿絵を中心にした個展の開催、満天の星空を期待して出かけた初めてのモンゴルの旅など、１年間に１万キロを超える旅をした。また、初めて木彫に挑戦し、弘法大師像の制作に励む。そして８８回目の誕生日を迎えた日、これまで生きてきた年月を８８枚の花びらを模した紙に描いて屏風にコラージュし、更に１００歳まで現役であり続けたいという決意を込めて１２枚の白い花びらを描き加え、８８歳の卒業制作を完成させる。

木や草を鉢に植え長い歳月をかけて育てあげ、凝縮された空間美を作る美の世界、盆栽。東洋美の極致ともいえる小宇宙の風景は、我々の祖先が独創性と高い芸術性を加味して類のない世界を生みだしてきた。豪壮、繊細、華麗、神秘性、荒々しさ、さまざまな風景の修辞で形容される気品ののある文人趣味。中国から渡り、東山文化を彩り、江戸庶民に愛され、やがては投機の対象までになり、再び日本人が独自の自然観のはてに到達した今日の姿を描く。◆【国宝】法然上人絵伝（知恩院）【重要文化財】西行物語絵巻、暮帰絵詞【盆栽】宮内庁大道庭園・五葉松（銘・三代将軍）模様木、大宮市蔓青園・かえで石付

数多くのドラマを生んだ１９９３年（平成５）のスポーツ界を振り返る、年末のスポーツハイライト。◆サッカーが日本に伝わって１２０年目のこの年、日本プロサッカーリーグ「Ｊリーグ」が開幕した。プロサッカーの誕生はそれまでサッカーに関心のなかった層を巻き込んで社会現象となり、日本のスポーツ界に新風を吹き込んだ。人気急上昇中のＪリーグの一年を、その立役者の一人・カズこと三浦和良さんと振り返って検証する。

数多くのドラマを生んだ１９９３年（平成５）のスポーツ界を振り返る、年末のスポーツハイライト。◆プロ野球に“ミスター・ジャイアンツ”長嶋茂雄が帰ってきた。勝っても負けても絵になり話題になる男は、野球本来の楽しさを思い出させてくれた。しかしＪリーグの爆発的な人気に押され、プロ野球界は危機感を募らせている。ゲストのヤクルト野村克也監督の話を交えながら混セ・混パのなかで模索を始めたプロ野球界を振り返る。

領国を堅固に治め、民心をつかんだ戦国時代の名将・武田信玄。武田流兵法書「甲陽軍鑑」には“人は城、人は石垣、人は堀、情けは味方、あだは敵なり”という歌が記されている。風林火山で有名な「孫子の旗」の勇将の顔と、夢窓国師・快川国師などを招く禅に帰依した教養人の顔をあわせもつ信玄。その命日４月１２日にちなみ、甲斐の国山梨県の４月はいまも武田信玄一色に染まる。誕生の地から菩提寺まで、ゆかりの場所をめぐって足跡をたどり、今日まで慕われる信玄の人物像を描く。◆【国宝】楯無鎧（菅田神社）【重要文化財】武田信虎画像（積翠寺）、四脚門（恵林寺）【その他】孫子の旗（快川国師揮豪・放光寺）、渡唐天神像（武田信玄筆・恵林寺）

わが子の強さを試すため谷へけ落とす親獅子と、それに答えた子獅子が谷を駆け上がる。親子の喜びの連れ舞を描く曲。◆能楽の『石橋』を基にした親子の獅子が舞う勇壮な曲である。獅子は中国で考えられた、浄土にいる空想の動物である。２種類の曲があるが、番組では杵屋勝三郎の曲を紹介する。唄・三味線・囃子の活躍する、華やかで見どころ聞きどころの多い曲である。◆「連獅子」唄野口悦治、渡辺雅弘、杵屋崇光、三味線杵屋勝雄治、鼓望月太喜雄、堅田喜三郎。◆副音声は英語

ガット農業交渉での市場開放の決定と歴史的な大凶作に揺れる日本の米。食管制度や補助金で「保護」されてきたコメ農業をどのようにリストラしていくのか。いま農村で何が起きているのかを検証し、コメの生産と流通の在り方を見直すことで、生産者が誇りを持ち消費者が納得できるコメ農業の現実を探っていく。◆スタジオの農水大臣、農民らと産地・消費者の３か所を多元的に結び、徹底討論する。

１９９２年６月７日、札幌麻生脳神経外科病院で看護婦たちが独自に行なっている重度の意識障害患者に対する取り組みが放送され大きな反響を呼んだ。放送後病院には５００通の患者家族からの手紙が寄せられた。その中から４家族の闘病ぶりを追い、命の尊さ、現代医療の問題を考える。