かつては闇の支配する時間であった夜。ろうそくと灯心の明かりだけで行われる「夜咄」は、寒さの厳しい冬の夜に２時間以上をかけて行われる。遠州流の長い伝統に則り、名のある道具を揃えて薄明かりの中で息を散らさず一心に茶に向かう、凝縮した時間をテレビカメラが映し出す。幕府の要職に就き、茶の世界でも大成した遠州、その晩年の茶室「忘筌」に込められた茶の心、独自の美意識を探り、近江出身の武家文人の生涯をたどる。◆【重要文化財】忘筌（大徳寺孤篷庵）【その他】瀬戸茶入飛鳥川、高麗茶碗夢の字、オランダ茶陶薄藍地半筒茶碗

戦争を知らない若者たちが、太平洋戦争を体験した人々と出会うことで戦争の悲惨さ、戦争の真実を発見するドキュメント・シリーズ。この年のテーマは“外国人が見た日本人”。案内役は作家の山田太一。◆兵庫県神戸市に住む在日中国人三世で大学３年生の林瑛華さんが、神戸の町に残る戦争の傷痕をたどる。昭和１９年、神戸の華僑１２人がスパイ容疑で逮捕、検挙され、６人が獄死、残る６人も終戦の時まで投獄された。日本で暮らしていた華僑の人々が受けた迫害を明らかにする。

アジア各地を網の目のように結ぶ「海道」をたどりながら、歴史的、文化的な視点からアジアの現代を探るシリーズで、フィリピン、台湾、韓国、香港、タイの５か国を訪ねる。（１９９３年３月９日終了、全１１回）◆いまやタイ観光の代名詞ともなったプーケット島。この島の北に広がるパンガ湾には、独自の生活様式を持つ２００以上の島々がある。伝統的な素潜り漁を行うシー・ジプシーが住む島、また敬虔なイスラム教徒が暮らす島など、その民族構成は多彩だ。「アジアでもっとも美しいマングローブ森の島」といわれるパンガ湾のくらしを訪ねる島めぐり。

ベトナムからトルコ国境へとアジアを東西に横断する“アジアハイウェー”。国連の提唱によって建設され、繁栄と平和の道となるはずだったこのルート上の国々の現状を描くシリーズ。（１９９３年４月２５日〜１９９４年３月２７日放送、全１０回）◆第三集は、アジアハイウェー上の国で唯一戦乱を免れたタイを横断する。仏教と王室を中心にまとまり、３年間連続１０パーセントを超える経済成長をとげて繁栄を謳歌するタイ。アジアハイウェーもこの国に入ると整備されたハイウェーになる。しかしこの国の富は首都バンコクに集中し、農村部との経済格差は広がるばかり。人も物も集まったバンコクでは、世界最悪の交通渋滞が起きている。その奇妙な繁栄の姿を伝える。

アジア通で知られる元タイム誌記者、フランク・ギブニーさんが、複雑なアジアの近現代史をわかりやすく解説し、その奇跡的な経済成長の秘密を分析するシリーズ。（１９９３年５月３１日〜７月３０日、全９回）◆多文化国家インドネシアで求心力を発揮し、独立運動を長期主導したアフメド・スカルノ。国際的左翼にして自由ベトナムの達成に尽くしたホー・チ・ミン。東南アジアの民族運動のカリスマ的指導者を中心に、それぞれの民族独立への闘いの歴史を描く。

真珠湾奇襲攻撃にまつわる日米両国の思惑とそれに巻き込まれた人々の悲劇を描く。（１２月４日終了、全４回）◆米国海軍情報部の諜報員となった斉藤賢一郎は横浜に上陸、東京に潜入した。東京の協力者は２人。４年前に日本軍の南京虐殺で、中国人婚約者を殺害され、その後日本に移り住んだ米人宣教師ロバート・スレンセン。もう１人は、１０年前に九州の炭鉱に強制連行され、そこから脱走した朝鮮人スパイ金森。折しも、東京の海軍大学では山本五十六長官による図上演習が行われていた。その結果、冬季北太平洋航路によるハワイ真珠湾奇襲攻撃が採択され、その結集地に択捉島・単冠湾（ヒトカップワン）が決定した。

領国を堅固に治め、民心をつかんだ戦国時代の名将・武田信玄。武田流兵法書「甲陽軍鑑」には“人は城、人は石垣、人は堀、情けは味方、あだは敵なり”という歌が記されている。風林火山で有名な「孫子の旗」の勇将の顔と、夢窓国師・快川国師などを招く禅に帰依した教養人の顔をあわせもつ信玄。その命日４月１２日にちなみ、甲斐の国山梨県の４月はいまも武田信玄一色に染まる。誕生の地から菩提寺まで、ゆかりの場所をめぐって足跡をたどり、今日まで慕われる信玄の人物像を描く。◆【国宝】楯無鎧（菅田神社）【重要文化財】武田信虎画像（積翠寺）、四脚門（恵林寺）【その他】孫子の旗（快川国師揮豪・放光寺）、渡唐天神像（武田信玄筆・恵林寺）

３０年前に別れた女房を迎えに行く父と息子の胸のうちを描く。◆大介は３年ぶりに父の平吉から連絡を受けた。平吉と大介を置いて島村という男と逃げた母・雛子を迎えに行こうというのだ。島村が死んでからは木曽のサナトリウムで養生しており、いまは身寄りもいないらしい。久しぶりにあった父子はぎこちなく会話を交わすが次第にうちとけていく。大介は自分たちを捨てた女だと母を非難するが、平吉はずっと忘れられなかったという。２人は翌日その母を訪ね木曽へ旅立つ。