奈良時代初期、左大臣でありながら謀反の疑いをかけられ自害した長屋王（〜７２９年）。その邸跡から発見された木簡の内容を解読し、当時の貴族の生活や藤原氏との確執の実態に迫る。◆邸内には家政を取りしきる役所があり、医者や私兵をも置いている。また当時は貴重品であった氷を取りよせるなど、当時の一級貴族の豪華な生活を窺い知ることができる。さらに木簡の中には「長屋親王」と記されたものもあり、長屋王は皇位継承権をもっていた可能性もでてきた。政治の実権を狙う藤原氏にとって、左大臣・長屋王は打倒すべき対象とされたのではないか。

源氏物語に描かれる雅な香りの世界を源として、室町時代に成立した香道。同時代には茶道・華道・能楽も誕生した。香道は夢幻の香りの中に遊ぶ、匂やかな世界。王朝時代は空薫物という生活の中の趣味だった。銀閣寺内の弄清亭は現存する唯一の本式の香室。当時の公家や文化人は、戦乱をよそに香道に打ち込んだ。家康も高価な南方の香木・伽羅で楽しんだという。現代の優美な御家流香道の組香を観賞しつつ、日本人と香の心を探る。◆【国宝】源氏物語絵巻〔徳川美術館〕◆【その他】源氏物語絵合冊子〔天理大学図書館〕、立花図〔曼殊院〕、名香六十一種名寄文字鎖〔陽明文庫〕

建設会社営業部長の和夫が定年退職し最後の勤めから帰宅した。和夫は妻の千恵に、退職金２０００万円の小切手を手渡す。長男の武夫と妻の優子、長女の容子と夫の順一が和夫の慰労にやって来た。子どもらから、２人分のスペイン旅行のチケットを贈られて千恵は大喜びする。だが、武夫たちから、両親が住む時価１億円の実家を処分して、まとまったお金を貸してほしいと申し込まれ、千恵は今度は怒り出す。子どもらには腹を立てたが、旅行チケットは使いたい。和夫と千恵はツアーに参加する。マドリードから始まったスペインの旅で夫婦は青春気分をとりもどす。

日本経済新聞紙上で１９５７年３月に始まった「私の履歴書」テレビ版の新シリーズ。一時代を築いた人物が出演し、自らについて語る。（１９８８年１０月５日〜１９９１年３月２６日放送、全１２７回）◆生江義男：桐朋学園理事長。

ＮＨＫ交響楽団の残した数々の演奏や“テレビ音楽作品”などの貴重なライブラリーを紹介し、テレビが文化に果たす役割についての討論を交えながら、日本人の中の日本と西洋の音楽について考える。教育テレビ放送開始３０周年記念番組。◆スタジオゲストは石井眞木（作曲家）、武満徹（作曲家）、一柳慧（作曲家）、横山勝也（尺八奏者）、芝祐靖（横笛奏者）、観世栄夫（能役者・演出家）の各氏。また各界の著名人がコメントを寄せる。

今までテレビカメラはタブーとされてきたソ連領最果ての島・サハリンを、薬師丸ひろ子が縦断。数々の体験をレポートする。◆かつて日本領にあるときは樺太と呼ばれ、敗戦とともにソビエト社会主義連邦共和国に属して“サハリン”となった島。最北端、シュミット半島を南下、アレキサンドロスクサハリンスキーを経てユジノサハリンスクなどを取材する。マス漁や樺太グマを紹介し、サハリンのソ連人、また戦争の深い傷を抱いてサハリンにとどまっている日本人の生活を追う。

聖武天皇の病気平癒を願い、光明皇后によって創建された新薬師寺。「長屋王の変」などの政争とともに飢きん・疫病などすさんだ世を背景に、薬師如来の功徳を願う衆生の救済という意味もあった。◆堂内の巨大な薬師如来を守護する十二神将は、薬師の行を妨げる悪魔と戦う仏たちの化身。北方アジアの騎馬民族風で西域を思わせる異形。その気迫と憤怒の表情が天平の世を象徴し、古代国家の危機的状況を救った。◆【国宝】新薬師寺本堂、薬師如来坐像、十二神将立像〔新薬師寺〕、十一面観音立像〔法華寺〕◆【重要文化財】新薬師寺の東門、南門

今から四百数十年前、日本にもたらされたキリスト教。その歴史は迫害と殉教の歴史でもあった。しかし神の教えを守り続けた人々の信仰は、不思議な美の世界を残した。悲しい光、鋭い意志の輝き。厳しい探索を逃れるため隠れキリシタンが作った、菩薩と聖母を重ね合わせた白磁のマリア観音像。すり減った踏絵板など。◆キリシタン禁制下の長崎周辺に残された悲しみの美術品や、殉難の軌跡を顧みる。◆【国宝】大浦天主堂〔カトリック長崎大司教区〕、◆【その他】マリア観音、聖母像〔東京国立博物館〕、聖餅箱〔逸翁美術館〕、南蛮鐘〔春光院〕