東京の入谷南公園で村越吉展ちゃんが誘拐されてから１年（１９６３年３月３１日）。一時は１６７名もいた捜査陣は４７名に減った。この間浮かんだ容疑者は１万人を越えたが、声だけが頼りの捜査は今もって手がかりが掴めない。それでも草の根を分けてもと根気強く粘る捜査陣。あれ以来励ましの手紙が絶えぬ吉展ちゃんの家では、妹の美子ちゃんが今日も大好物だった牛乳を写真に供えて、お兄ちゃんの帰って来る日を待っている。（週間話題）

１９６４年２月２７日、富士航空の旅客機が大分空港で着陸に失敗、河川敷に墜落し死者２０人、重軽傷者２２人という戦後３番目の大惨事となった。操縦上のミスか、機械の故障か、現場では実地検証が始まった。事故を起こした副操縦士は、客を乗せて着陸飛行をしたのはこの日が初めて。操縦士の不足に悩む民間航空では養成が間に合わず、未熟のままで操縦する例は少なくない。今回の事故もこうした無理が引き起こした惨事といえる。

浅間山の麓、長野県佐久の視聴覚教育資料館は、全国でも有数のフィルムライブラリーを備えている。ここの事務局長・根津氏はこの程、酔っぱらい運転の恐ろしさを訴える８ミリ映画の制作にとりかかった。早速医者や看護婦に出演を依頼、次は警察を訪れて資料の調査、交通事故の統計をメモしてシナリオ作りに取り組む。いよいよクランクイン、目抜き通りにカメラをすえて張り切る根津監督。映画のクライマックスは病院のシーン。かつぎ込まれた夫は瀕死の重傷。かくて撮影快調、タイトルも“深夜の恐怖”と決まった。（町から村から）

１９６４年５月、ソビエト連邦のフルシチョフ首相はナイル河に建設中のアスワン・ハイ・ダムの第１期工事完成式に出席のため、アラブ連合を訪問した。この日アレクサンドリアから首都カイロにいたる沿道は歓迎の人波で埋まり、遠来の客を迎えた。一方、日本の旅を続けるミコヤン第一副首相は広島を訪れ、原爆犠牲者の霊に敬虔な祈りを捧げた。そのあと厳島に立ち寄った一行は日本の風光を楽しみ、北九州の工業地帯では製鉄所を見学して日本の工業水準の高さを再認識した様子。東京に帰って歌舞伎座で中村歌右衛門さんと再会、何でも見てやろうと歩き回ったミコヤン氏である。

春闘のうちに迎えた「働く者の祭典」第３５回メーデー。６０万人が参加した東京の中央メーデーは、オリンピック施設工事の関係で会場を大井競馬場など５ヶ所に分散して行われた。東部会場となった猿江公園には地元の町工場からも参加者が集まり、デモ行進は下町らしい雰囲気に包まれた。一方、全学連は国会前に座り込んで警官隊と小競り合いを演ずる始末。台風の目といわれた全学連が僅かに暴れただけで今年のメーデーは穏やかに幕となった。

９月７日から開かれる国際通貨基金及び世界銀行総会に出席する１０２ヵ国、２千人の代表が相次いで羽田に到着。何しろ国連総会と並ぶ国際的大会議とあって毎日２百人のお巡りさんが警備や交通整理に大わらわ。今年の４月国際通貨基金８条国となり、続いて経済協力開発機構に正式加盟、やっと先進国の仲間入りをした日本にとってこの総会は晴れの成人式。５日間にわたる会期中、金融の糸口をつかもうとする各国代表は総会よりもパーティーでと舞台裏の動きはなかなかにはなやか。この間使われるお金はザッと１０億円、まさにお金のオリンピックである。

人口５万、飛行場と名神高速道路の起点、愛知県小牧市の神戸市長は若者顔負けのやり手。名神高速道路の完成を見てとった神戸氏は小牧を「陸の港」にしようと計画、まず工場誘致にのり出した。手がけた工場はすでに２５０社、操業を開始したところもある。一方農業の近代化にも着手、養鶏場や乳牛の放牧など新しい農業の集団経営が試みられている。忙しい神戸市長は今、小牧市を１０万都市に育て上げようと夢見ながら毎日張り切っている。（町から村から）

義理と人情を愛し、気取らぬ人柄で親しまれていた自民党副総裁、大野伴睦さんが１９６４年５月２９日に亡くなった。東京高輪の大野邸には池田勇人首相はじめ社会党の河上丈太郎委員長、共産党を除名された志賀義雄さんら政界はもとより、各界の人達が詰めかけた。政友会院外団を振り出しに、一度も月給取りにならなかったという生っ粋の政党人として活躍、吉田茂・鳩山一郎両氏の対立時代には両者の橋渡しに奔走、第２次鳩山内閣当時には保守合同を推進した。１９５７年（昭和３２）には党の副総裁として党人派の長老にのし上がった大野さん。７月の総裁公選を前に親分を失った大野派の面々は「とにかく故人の遺志を継ぐのが道」と一致協力して行動することを誓い合った。３選を目指す池田さんは両腕をもがれた思いと暗い表情。実力者による次期総裁争いが活発化している時だけに、まとめ役の大野さんの死は波紋を広げている。