１９６６年９月２５日東日本を駆け抜けた台風２６号は、各地に大きな爪跡を残した。台風の直撃を受けた山梨県の足和田村西湖地区は、三沢山から押し出した山津波に呑まれ、２０戸がマッチ箱のように押しつぶされた。死者２２人、行方不明１４人。また西隣りの根場地区では集中豪雨の為、あふれた小川が山を押し流し３５戸を呑み込んだ。死者２７人、行方不明３７人、村は悲しみのドン底に突き落された。被災地にまた恐怖の夜がやって来た。人々はまだ泥の下に埋まっている肉親を思い、まんじりともしない。一夜あけて根場地区にやっと自衛隊８００人が到着、救援活動が始まった。やがて厚い泥の下から変わり果てた遺体が運び出される。もうこの村に住むのは御免だと人々は先祖伝来の土地を捨てようとしている。しかし、まだ多くの遺体がこの泥の下に眠っているのだ。

オホーツク海に面した最果ての町、網走。中川イセさん６６歳はこの町の名物女、１３の時から働き始め、水商売の世界に身を沈めた事もある。あぐらをかいて気さくに人の相談にのる所から、あぐら婆さんという名で親しまれている。不幸な人の味方をもって任じ、市会議員として２０年間活躍してきたかたわら、法務省の人権擁護委員も務め、法務局、警察、家庭訪問と忙しい毎日だ。世話好きな婆さんは仲人もよく頼まれる。今日は５１組目の結婚式。こうした忙しい婆さんの楽しみは、１日の仕事を終えてたしなむ１杯の晩酌だ。男どもに負けられないと始めた護身術は、いつか３段の腕前となった。北海名物あぐら婆さんは今年、その長年の功績が報いられて藍綬褒章を贈られる。

子供達の間で、今怪獣がすごいブームを呼んでいる。あるデパートで怪獣の催しをしたら屋上いっぱいに子供が集まる騒ぎ。ブームの本家であるＴＶ映画製作社では、毎週１匹の怪獣を登場させようとニューフェイスの募集に頭を悩ませている。怪獣の好きな大人の集まりだけにみんな大張り切り。このブームに乗り遅れるなと、玩具メーカーは怪獣の人形を１日２万個というペースで作ってばらまいている。怪獣の売り場はどこも目の色を変えた子供達でいっぱい、泣く子と怪獣には勝てない、親のしぶい顔に比べ子供は大喜び、だがこのブームはいつまで続くのだろう。

日本女子体操界に彗星の如くホープがあらわれた。１８歳の高校生、田島幸子さん。彼女を育てたのは山形県米沢商業高校。いま１０人の部員たちは暮れも正月も返上して、高橋一夫先生のきびしい指導の下にトレーニングに励んでいる。小さなミスにも高橋先生の激しい声が容赦なく選手たちに飛ぶ。練習が済むと８ミリでソビエトのクチンスカヤの競技を検討する。１日１回練習しないと気がすまないという田島さんは昼間を練習時間に当て、夜間部で勉強するほど体操に熱を入れている。体操部が出来て今年で１０年、田島選手に続けと若いホープたちは黙々とわが道をひた走る。（今日の群像）

大安吉日の１９６６年１１月１３日、羽田空港は新婚旅行へ旅立つ人で華やかなムードに溢れていた。それから１０時間後、全日空オリンピア号が松山沖で墜落の知らせに空港は重苦しい空気に包まれた。遭難した５０人の中には、１２組の新婚夫婦が含まれている。ＹＳ−１１は戦後初の国産旅客機で、安定した性能と短い滑走距離は高く評価され、アメリカから７３機の注文を受けたばかり。遭難現場では空と海から大規模な捜索が続けられているが、時化のためはかどらず、２９体がいまだに冷たい水の底に沈んでいる。

東京の銀座にお目見えした音の出る階段。１９６６年４月２９日、ソニービルが店開きし、足をのせると聞えるドレミの音に見物人はただびっくり。こちらは中二階に据えつけられた、世界でも初めてという竹を使ったパイプオルガン。ある楽器メーカーが１年４ヶ月をかけて作り上げたもので、お値段はざっと１０００万円也。ついにはガラスメーカーまでが楽器をつくり出した。試験管のお化けのようなものやガラスのシンバル、ガラスのギターを演奏すれば、見物人はいまにも割れるのではないかというスリルに痺れていた。

東京山の手線のターミナル、池袋駅のラッシュアワー。駅員もテレビ室も後から後から押し寄せて来る人の波でてんてこまい。１日にざっと８０万人、東京駅を追い越して日本一の混雑ぶりに、係員は会社や官庁にお百度を踏んで時差出勤の呼び掛けに懸命。このままだと５年先には輸送能力がついていけなくなると、京浜東北線や中央線では複々線や高架線の工事が急ピッチ、しかし悩みの種は資金不足、約９００億円の政府出資が必要と頭の痛い国鉄、着膨れラッシュは当分続きそう。

１９６６年７月２２日、フィリピン・ニュービリビッド刑務所の元所長であったアルフレッド・ブニエ博士夫妻が、元戦犯達によって作られているモンテンルパの会の招きで来日した。奇しくもこの日は１３年前彼らが日本に帰ってきた日、久しぶりの対面に互いに深い感激にひたっていた。博士は刑務所長時代、敵国人であり戦犯であった彼らを犯罪者としてではなく、寛容と愛情で接しその減刑帰還に努力した人。モンテンルパの父を迎えて、その夜九段会館において百数十人の元戦犯やその家族とのなごやかな交歓が行われ、感謝のプレゼントが贈られた。翌日、博士夫妻はみんなと一緒に日光見物した後、関西旅行に旅立った。日本の休日を楽しむその姿は金婚式を迎えた老夫婦のようななごやかさがあった。（にっぽん昨日今日）