まるで山全体が海に押し出してくるように、不気味な地滑りが続いている東北本線浅虫〜野内間。列車はお盆の帰省客や北海道への観光客で超満員、浅虫の駅はバスに乗り換える乗客でごった返す。ただでさえ狭い国道は車が溢れてマヒ状態。こうなったら頼りになるのは自分の足だけと歩け歩け、まるで避難民の行列だ。やっとたどり着いた仮停車場、くたくたになった乗客を詰め込んで列車はやっと動き出した。現場では徹夜の復旧作業、７月２８日以来土砂との闘いを続けてきた東北本線は８月２２日、２６日ぶりにやっと開通にこぎつけた。

大相撲秋場所を終えてほっと一息ついたお相撲さんたちが、１９６６年９月３０日にグランドで１３年ぶりに運動会を開いた。ウナギつかみ競争では、天下の大鵬も四苦八苦。横綱三役と子供たちの綱引きでは子供チームが勝った。応援合戦もはなやか。呼び物の仮装行列では立浪部屋の面々が海賊船に乗り込み、宮城野部屋の連中がアイヌの扮装をし、高砂伊勢ヶ浜の猛者連がフラダンスを披露と様々。中でも傑作は柏戸の赤いおべべを着たはなたれ娘と、大鵬の幼稚園児スタイル。その後行われた５０メートル競争では柏戸が大鵬を抜いてトップ、秋場所のかたきをうった。

１９６６年７月２４日、戦前戦後を通じて初めて訪日したソビエトの外務大臣グロムイコ氏を迎えた佐藤栄作首相は、北方領土、ベトナム問題について日本側の意向を伝えたが、ソビエトの態度は予想通り固く平行線をたどった。しかし安全操業問題での交渉の継続、両国外相の定期協議や日ソ領事条約の調印など、日本側の顔を立てることも忘れない。辞任を発表したライシャワー米国大使も姿を見せたレセプションでは、微笑外交で親善ムードをふりまく。ミスター拒否権と異名をとるグロムイコ氏は、さすがに外務大臣１０年の貫禄を見せ、にっこりと日本を去って行った。

１３３人の命を奪った全日空事故から１ヶ月、またも空の惨事が繰り返された。しかも連続して２つの事故。１９６６年３月４日、濃霧注意報下の羽田空港で、香港から来たカナダ航空のＤＣ‐８が着陸に失敗、炎上した。乗務員、乗客７２人のうち死者６４人、奇跡的に命を取り留めたのはわずかに８人、殆ど無傷で脱出した男性は生きていることが信じられないと語る。この夜、カナダ航空は創立以来の大事故に混乱を起こし、その間、遺族は絶望と怒りに震えていた。事件当夜、ＤＣ‐８は高度を低くとり、海上の進入灯に脚をひっかけ、滑走路端の防波堤に激突。機体は１キロ四方に散乱、濃霧の中で着陸しようとしたパイロットのミスという説が強いが、空港の計器着陸装置が整備中で使えなかったという事実も明らかになった。そして空港再開からわずか７時間後、今度は香港に向かったＢＯＡＣのボーイング７０７が、富士山上空で空中分解を起こし、２合目の雑木林に墜落した。乗員乗客１２４人は全員死亡、自衛隊員ら２５００人が出動して遺体の収拾にあたった。タンカに染み付いた血が、墜落当時の激しい衝撃をもの語る。犠牲者のうち７５人はアメリカの団体客で、初めての日本見物が死出の旅路となった。相次ぐ空の惨事に、カナダ航空からフィリップス副社長が、ロンドンからガスリーＢＯＡＣ会長が慌ただしく来日した。新鋭ジェット機の連続事故は航空界に再検討を迫っている。わずか１ヶ月に３度の大きな事故を起した日本の空、心から乗客の安全を祈らずにはいられない。

梅雨前線を刺激した台風４号は、関東地方に記録的な大雨を降らせた（１９６６年７月２８日）。特に２７０ミリという集中豪雨を浴びた横浜市では、１１９ヶ所にわたってがけ崩れが発生、死者２８名を出した。横浜市は危険な丘陵地帯がいっぱい、脆い地質の関東ローム層は大雨にあったらひとたまりもない。それでも土地会社は崖の下まで削り取って家を建てる。特に神奈川区三枚町で起きたがけ崩れは、ずさんな宅地造成の恐ろしさをまざまざと見せつけた。幅４０ｍ、長さ１５０ｍにわたる地滑りは、まだじりじりと崖下の家に押し寄せている。付近の２０世帯は家財道具を持ち出して避難を始めた。毎年台風のたびに起るこうした事故は、天災といっては済まされない宅地造成の悲劇という他はない。

吉野杉で知られる奈良県東ノ川地区は、バスの乗り場まで４０キロという辺鄙な山奥。ここを流れる熊野川に４年前ダムが完成、１２０戸が水の底に沈んだ。１戸当り４、５百万円の補償金が転げこんできた。村にはモダンな住宅が建ち並んだ。ところが村の人達は不便な山の生活を嫌って、町に出たまま今では無人の村となってしまった。鉄筋２階建ての公民館も誰１人利用する者もいない。２５００万円もかけた小学校では、せっかくの新しい校舎も生徒が１人もいなくなってしまっては宝の持ち腐れ。村人のいない郵便局では、局長さんがヒマをもてあましている。山奥のふる里は、新しいよそおいのまま静かに眠り続けている。

１９６６年３月２６日、全国から選ばれた精鋭２４校が参加して、第３８回春の選抜高校野球が甲子園球場で華やかに幕をあけた。史上最年少１８歳の塩崎正和監督に率いられた高野山高校。富士宮北高、望月茂男主将の選手宣誓に続いて、米子東−富士宮北の第１戦を皮切りに、紫紺の大優勝旗めざして８日間にわたる熱戦の火蓋を切った。（週間話題）

東京深川の木場で江戸時代から２５０年の伝統を誇る角乗りが、１９６６年１０月１０日に公開された。長さ５ｍ、幅３０センチの角材に飛び乗って次々と名人芸が飛び出す。はらはらさせる駒げた乗り、肩車で乗るかわせみの妙技。スリル満点のハシゴ乗りは男度胸の見せどころ。カゴに揺られて水の上、しかし安全運転とまでは行かなかったようだ。