千葉県銚子第５中学校の塚本先生は、タクトを握れば鬼より恐い音楽の先生。この年も「こども音楽コンクール」が近づいて７２名のクラブ員は一生懸命。音楽クラブ創立以来１０年、今年はぜひ優勝したいと厳しい気合いがはいる。納得がいかなければ日が暮れても帰してくれない。東日本の決勝大会には１９校が参加。この年は西日本勢が弱く、これが事実上の優勝決定戦とみられている。日頃の腕のみせどころ、「アルジェリアのイタリア人」を力いっぱい演奏した。審査の結果は他をよせつけず、東日本第一位と決まった。これで日本一の栄冠は目の前、塚本先生の顔がやっとほころんだ。

日本女子体操界に彗星の如くホープがあらわれた。１８歳の高校生、田島幸子さん。彼女を育てたのは山形県米沢商業高校。いま１０人の部員たちは暮れも正月も返上して、高橋一夫先生のきびしい指導の下にトレーニングに励んでいる。小さなミスにも高橋先生の激しい声が容赦なく選手たちに飛ぶ。練習が済むと８ミリでソビエトのクチンスカヤの競技を検討する。１日１回練習しないと気がすまないという田島さんは昼間を練習時間に当て、夜間部で勉強するほど体操に熱を入れている。体操部が出来て今年で１０年、田島選手に続けと若いホープたちは黙々とわが道をひた走る。（今日の群像）

第４回日ソ対抗体操競技大会の種目別では、ソビエトの若いホープ、クチンスカヤと日本の新人、田島幸子が話題の焦点。段違い平行棒でもキビキビした演技を見せる１７歳のクチンスカヤはバネがきいた柔らかさあふれた美しいフォームを見せていた。１８歳の女子高校生、田島幸子は平均台で９．７と自己ベストを出した。平均台では０．１の差でクチンスカヤが１位、２位は池田敬子と共に田島幸子がなった。コーチの高橋一夫先生も満足げ。（週間話題）

吉野杉で知られる奈良県東ノ川地区は、バスの乗り場まで４０キロという辺鄙な山奥。ここを流れる熊野川に４年前ダムが完成、１２０戸が水の底に沈んだ。１戸当り４、５百万円の補償金が転げこんできた。村にはモダンな住宅が建ち並んだ。ところが村の人達は不便な山の生活を嫌って、町に出たまま今では無人の村となってしまった。鉄筋２階建ての公民館も誰１人利用する者もいない。２５００万円もかけた小学校では、せっかくの新しい校舎も生徒が１人もいなくなってしまっては宝の持ち腐れ。村人のいない郵便局では、局長さんがヒマをもてあましている。山奥のふる里は、新しいよそおいのまま静かに眠り続けている。

雪にうずもれた松代町に年１度の松代相撲がある。相撲と言っても裸になって勝負を決めるのでなく、大相撲初場所の勝ち力士を当てるゲームである。勧進元で出題された１０番の取組を１６部屋、４００人の力士が勝敗を予想する。勧進元では結果を採点、１５日間の成績を集計して横綱から序の口までの番付を決める。千秋楽には全力士が雪の花道を踏んで村の国技館に勢ぞろい。役力士の土俵入りが行われる。この行事は年々盛んになり、娯楽のない山間僻地の人々にとって楽しい冬のレクリエーションとなった。（町から村から）

月旅行の足がかりとして注目されたアジェナ無人衛星と、ジェミニ８号のドッキングが行われた（１９６６年３月１７日）。美しく輝く地球をバックに浮かび出たアジェナに、ジェミニ８号が鼻と鼻が向き合うように接近。カプセルとカプセルが見事に重なった一瞬、史上初のドッキングが成功した。しかし、電気回路の故障のため、ジェミニ８号が激しく回転を始め３０分間でドッキングは中止、アームストロング、スコット両飛行士は沖縄東方の太平洋上に不時着水した。

浜名湖の畔に特別養護老人ホーム「十字の園」がある。ここには身体が不自由で身寄りのない老人１００人が収容されている。熊さんこと、アイヌ人の砂沢宇一郎さんもその中の１人。熊彫りの名人とうたわれた人だが、中風で手足がきかない。もう１度熊が彫りたい、熊さんは燃えるような執念をかきたてて両手の回復に全力を尽くした。そして２年、一時は医者も見放した手足が自由に動くようになった。湖畔に立って遠いふる里、石狩の原野を思いながら一心にムックリ（アイヌの伝承楽器）を鳴らす。熊さんの腕の記憶は徐々によみがえった。ノミは再び生命を取り戻し、熊さんは彫り上げた熊を、病床の老人や看護婦に贈ってその喜びをわかち合った。熊さんは復活した！会心の作の出来る日が待ち遠しい。

摂氏１２００度のカマから取り出されたガラスを風船のように膨らませて作るクリスタルガラスの芸術。鎌田森さんは九つの時から、この道一筋に生きてきたガラスの名人だ。鎌田さんの特技は、型を使わず手を使って形を作る。コツは新聞紙の濡らし具合いだ。その手つきはまるで可愛いわが子を扱うようだ。こうして作られた皿は、カットされ見事な芸術品に仕上げられる。１番嬉しかったのは、会社から隠れた功労者として表彰された時だという。ガラスの魅力に取り付かれて６０年、今日も鎌田さんはガラスの中に生きている。