ジェット時代の花形として登場したボーイング７２７、この巨大な「空のバス」は世界にその高性能と安全性を誇っていった。だが１９６６年２月４日、１３３名を乗せて札幌を飛び立った全日空の同型機羽田到着寸前、東京湾に墜落。空港史上最大の事故となった。肉親の帰りを待ちわびていた家族は絶望のどん底、空と海とで繰り広げられた大捜索で変わり果てた遺体が発見され、遺体安置場の増上寺は悲しい対面の場と化した。しかし、５日までに発見された遺体はわずか２９体、翌６日から海上保安庁をはじめ漁船に至るまで東京湾上に大がかりな捜索が繰り広げられた。海のレインジャー部隊も凍り付くような海に飛び込んで手探り同様の困難な作業を行った。午前９時すぎついに羽田沖１２キロの海底に沈む遭難機を発見、しかし遺体の引き上げは高まる風波のためにはかどらない。４日間も待ち尽くした遺族達は遭難現場に向かい、一刻も早い遺体収容を祈る。遺族の願いを背に受けて荒波の中で遺体収容が始まった。ここ数年来、我が国の航空路線はぐんと伸びて来た。デラックスな新鋭機を買い入れ、お客を呼ぶ。しかし、その前に安全は果たして充分なのであろうか、ボーイング７２７は昨年アメリカで今度と同じように着陸時の事故を３回も起こしている。

機動隊が大学構内に出動して２０３人の検挙者を出した早稲田では、ものものしい警戒のうちに入学試験の日を迎えた。裏門は有刺鉄線で閉ざされ、構内に通ずる道路は立入禁止。取り巻く警官は７５０人、要所要所には検問所が設けられ、ネコの子一匹もぐり込むスキもない。こうして１９６６年２月２４日から警官護衛つきという前代未聞の入学試験が始まった。構内にはいれない父兄達は心配そうな表情、夜になってもパトロールが続く。まるで指名手配の凶悪犯が立ち寄ったみたいだ。大隈講堂には警官隊が泊り込み、再び学生達が侵入してくるのに備えている。おかげで周辺の商店街はさっぱり。学園を追われた学生達は、近くの戸山ハイツで気勢をあげている。抗議デモが始まり、また機動隊と衝突する。新たに７人のリーダーが逮捕されたが、学生達はまだまだ戦い抜く決意。この騒ぎは尾をひきそうな気配。

阿蘇に近い熊本県大津町を走る国道５７号線は、九州横断道路の完成以来、交通量も事故も鰻登りに増えた。取締りに手を焼く警察の手伝いをしようと、酒屋の主人など町の有志１５名がこの程交通事故防止協力隊を結成。白いヘルメット、ベルトに制服姿の隊員は交通標識を立てたり、道路に白線をひくなど本職の警官を助けて事故防止に努める。本物そっくりの隊員の姿を見ると、スピード狂や無謀運転手も思わずおとなしくなるとあって効果満点。頼まれると田植も手伝う、おらが町の民間交通パトロール隊である。

１２月１日、政界の粛正を旗印に立候補した藤山愛一郎さんが、絶対優勢を誇る佐藤栄作さんにどの程度迫るか。注目の自民党総裁選が１９６６年１２月１日行なわれた。佐藤さんの再選は確実とあって、興味は批判票が３分の１の壁を破るかどうかに集まった。投票の結果、佐藤さんが２８９票を獲得して再選した。藤山さんはさっさと退場したが１７０票の批判票が出たことに気をよくしてか会心の笑み。苦い勝利の佐藤さんは万歳の声にも緊張の面持ち、こうして国民注目の黒い霧に答える第３次佐藤改造内閣がスタートした。政治は実行第１でと佐藤さん。しかし「期待できぬ」「興味無し」「信頼感がない」と町の声は意外に冷たい。

世はまさに美容体操ブーム。小桜葉子さんの教室には、新幹線で通って来る人もあって大盛況。こちらは元チャンピオン金子繁治が始めたボクシング美容、１日１００円という安さが人気を呼んで、ジムは近所の奥さんで大繁盛。一方アメリカ直輸入の美容機械を完備して、この程オープンしたのが東京ヘルスクラブ。ただし入会金は２０万円、月謝１万５０００円とゴルフクラブ並みのお値段。インド渡来のヨガの道場も大盛況。美容体操ウルトラＣ、チャスラフスカも顔負け。悩ましい“くの一忍法”そこのけ、ヨガ体操の基本ポーズ。精密な機械から、忍法まがいの美容術まで世はまさに美容体操ブームである。

１９６６年７月１日、沢田美喜さんら社会に大きな功績のあった人々に、初の総理大臣顕彰が贈られた。沢田さんは戦後捨てられた子どもたちの母になろうと、昭和２２年自費でエリザベス・サンダースホームを開設、以来６００人の子供を育ててきた。物資の無かった頃、たとえ自分が飢えても子供たちには十分食べさせたいとかけずり回った時代が一番苦しかったそうだ。その間しばしば渡米し、養子として縁組したものは３００人にのぼる。今年も３４人の子供たちと、鳥取県岩美町の臨海学校にやってきた。沢田さんの今後の仕事は、ブラジルに作った聖ステパノ農園を子供たちの永住の地にすること。今年６４歳、若々しいファイトをにじませて子どもたちのために一生を捧げる沢田さんである。

千葉県銚子第５中学校の塚本先生は、タクトを握れば鬼より恐い音楽の先生。この年も「こども音楽コンクール」が近づいて７２名のクラブ員は一生懸命。音楽クラブ創立以来１０年、今年はぜひ優勝したいと厳しい気合いがはいる。納得がいかなければ日が暮れても帰してくれない。東日本の決勝大会には１９校が参加。この年は西日本勢が弱く、これが事実上の優勝決定戦とみられている。日頃の腕のみせどころ、「アルジェリアのイタリア人」を力いっぱい演奏した。審査の結果は他をよせつけず、東日本第一位と決まった。これで日本一の栄冠は目の前、塚本先生の顔がやっとほころんだ。

東京深川の木場で江戸時代から２５０年の伝統を誇る角乗りが、１９６６年１０月１０日に公開された。長さ５ｍ、幅３０センチの角材に飛び乗って次々と名人芸が飛び出す。はらはらさせる駒げた乗り、肩車で乗るかわせみの妙技。スリル満点のハシゴ乗りは男度胸の見せどころ。カゴに揺られて水の上、しかし安全運転とまでは行かなかったようだ。