国民にとけ込み国民の声をじかに聞こうと佐藤栄作さんの国内漫遊が始まった。先ず最初は東京台東区の根岸小学校。お昼は生徒と一緒に、３６円也の給食を味わった。根岸小学校は下町の名門校と噂の高いところ。もっと悪い所も見て欲しいという声があるが、佐藤さんは「いい所を見て、それを基準にしてみんなを近づけるのは当然の事じゃあないか」とおかんむりの表情。大田区の羽田中学校は公害の学校。隣の工場から１年中吹き出す７色の煙に悩まされ、風向きが代わればジェット機の爆音が飛び込む。生徒の発育状態は全国平均を下回るとか。百聞は一見にしかず、佐藤さん是非こんな所も見て下さい。

大安吉日の１９６６年１１月１３日、羽田空港は新婚旅行へ旅立つ人で華やかなムードに溢れていた。それから１０時間後、全日空オリンピア号が松山沖で墜落の知らせに空港は重苦しい空気に包まれた。遭難した５０人の中には、１２組の新婚夫婦が含まれている。ＹＳ−１１は戦後初の国産旅客機で、安定した性能と短い滑走距離は高く評価され、アメリカから７３機の注文を受けたばかり。遭難現場では空と海から大規模な捜索が続けられているが、時化のためはかどらず、２９体がいまだに冷たい水の底に沈んでいる。

空前のスキーブームで賑わう上野駅、発車６時間前からもうこの有様。座れるか座れないかそれが問題。このラッシュを緩和するため国鉄ではスキー、スケート専用の臨時列車を運転、ゆっくり座って行ける上に旅館の予約もいたしますと至れり尽くせりのサービス。スキー場へ着いたもののロープウェイは長蛇の列。そこへ目をつけたのがヘリコプターの新商売。世はまさにスピード時代。ただし、値段の方もデラックス。ゲレンデは色とりどりのラッシュアワー。神風スキーヤーが我がもの顔にとばす。スキーラッシュは深夜まで続いている。

ルーベンス、レンブラントなど１７世紀の画家に特別出品のミレーを加えて、ヨーロッパの名画４７点が上野の国立博物館に到着。博物館は１点当り１億５０００万円もの保険をかけ、建物には３重に鍵をおろし、不寝番まで立てる厳重な警戒ぶり。日仏文化協定に基づく世界の名画の公開は早くも話題を呼んでいる（１９６６年１月２６日から）。

１９６６年８月１９日、トルコ東部を襲った大地震で１２０余りの村が壊滅状態となった。この辺りは山に囲まれた貧しい農村地帯。泥とレンガを積み重ねた家屋だけに、ひとたまりもなく崩れ落ち、死者は３０００人に達した。地震発生以来久しぶりに食糧が送り込まれて来たが、道路も壊れ本格的な復旧作業のメドは立たない。かつてない天災に見舞われたトルコの人々は暖かい援助の手を待ちわびている。

１３３人の命を奪った全日空事故から１ヶ月、またも空の惨事が繰り返された。しかも連続して２つの事故。１９６６年３月４日、濃霧注意報下の羽田空港で、香港から来たカナダ航空のＤＣ‐８が着陸に失敗、炎上した。乗務員、乗客７２人のうち死者６４人、奇跡的に命を取り留めたのはわずかに８人、殆ど無傷で脱出した男性は生きていることが信じられないと語る。この夜、カナダ航空は創立以来の大事故に混乱を起こし、その間、遺族は絶望と怒りに震えていた。事件当夜、ＤＣ‐８は高度を低くとり、海上の進入灯に脚をひっかけ、滑走路端の防波堤に激突。機体は１キロ四方に散乱、濃霧の中で着陸しようとしたパイロットのミスという説が強いが、空港の計器着陸装置が整備中で使えなかったという事実も明らかになった。そして空港再開からわずか７時間後、今度は香港に向かったＢＯＡＣのボーイング７０７が、富士山上空で空中分解を起こし、２合目の雑木林に墜落した。乗員乗客１２４人は全員死亡、自衛隊員ら２５００人が出動して遺体の収拾にあたった。タンカに染み付いた血が、墜落当時の激しい衝撃をもの語る。犠牲者のうち７５人はアメリカの団体客で、初めての日本見物が死出の旅路となった。相次ぐ空の惨事に、カナダ航空からフィリップス副社長が、ロンドンからガスリーＢＯＡＣ会長が慌ただしく来日した。新鋭ジェット機の連続事故は航空界に再検討を迫っている。わずか１ヶ月に３度の大きな事故を起した日本の空、心から乗客の安全を祈らずにはいられない。

労働党が天下をとって１年５ヶ月。１９６６年１月３１日の総選挙で、ウィルソン党首の率いる労働党は６３５議席中、３６３議席と過半数を上回る圧倒的な勝利を収め、今後５年間にわたる長期安定政権の体制を固めた。

全国３７ヶ所に出来た老人福祉センター。３０円で１日が楽しめるというので朝から賑わっている。このセンターには健康相談室があり検査や治療も無料サービス、衰えた手足を鍛える運動器具もあり、若返りに一役買っている。この日は敬老の日、東京都小金井市では乙姫さまや浦島太郎に扮したおじいさん、おばあさんたちが学芸会を開いた。これ以上年をとらないように玉手箱は決して開けないことになっている。こうして老人達は初めて祭日になった敬老の日を楽しく過ごした（１９６６年９月１５日）。