独り誰にも看取られず死んでいく「孤独死」という、現代都会の一面に対する男の苦悩と再出発のドラマ。◆主人公の祐作は３０歳。いまだに陸上競技選手への夢をもち、長距離走の練習を続けている。彼は、恋人にも内緒で生活費稼ぎのための仕事をしている。それは「残置物（ざんちぶつ）処理」という、アパートなどで孤独死した人の部屋に残ったモノを片付ける気味の悪い仕事だ。だがそこ残る残置物は、その部屋に暮らした人の痕跡であり、家族や親しかった人にとってはかけがえのない大切なものだった…。◆作：丸尾聡、音楽：長生淳。出演：谷川俊、酒向芳、須藤温子ほか。　ＡＢＵ賞受賞。

鹿児島県南九州市知覧町は、第二次世界大戦の時、陸軍の特攻基地として多くの若者が最後の時を過ごした。戦後６３年が過ぎ、戦争を知らない世代が増える中、映画や舞台で知覧を取り上げたものが増えてきた。この番組では、戦時下の知覧で暮らしていた方や元特攻隊員ら戦争体験者が、戦争を風化させないようにと知覧を語る。そして、戦争を知らない世代は知覧で感じたことを劇や歌で表現する。２００８年の知覧という場所を縦糸に、人々の活動を横糸に、タペストリーが織られていく。知覧は戦争を知らない世代に何を語り、何を伝え続けるのだろうか。

「弁護士」＝「子どものパートナー」という言葉を胸に、少年事件の付添人を務め続ける弁護士の活動を追う。◆元裁判官の多田さんは、２０年ほど前に弁護士に転業し、少年事件を担当してきた。付添人に法律上の定義はないが、少年の権利を守る弁護人の役割のほか、家庭裁判所に協力し、少年の更正や成長を手助けする。多田さんは子どもの話をじっくり聞き、一人一人の問題に向き合ってきた。また、付添人の活動以外にも、虐待を受け、家庭にも戻れない子どもたちが一時的に避難するシェルターを作るなど、子どもたちを守る仕事を精力的に行っている。◆文化庁芸術祭参加作品

幅広い分野から講師を迎え、日本語をユニークな視点から捉える「私の日本語辞典」。３回シリーズで国語学者の松井栄一さんに、祖父から三代にわたる辞書作りについて聞く。第２回は前回に引き続き、祖父、父から引き継いだ辞典の増補作業について、その細やかな手順と、辞書作りの喜び、苦心を聞く。「用例は辞書の生命である」という信念で進められる辞書作り。用例を採取し、カードを作成し、見出しとする語を選んでいく。５０万語という膨大な言葉との格闘である。その成果は「日本国語大辞典」として結実する。

２００７年のクリスマス、大阪府富田林市で救急患者が３０の病院で受け入れを断られ、翌日死亡するという問題が起こった。この時、救急搬送の要請を断られ続けた救急隊長と、受け入れた病院、断った病院がどんな状態だったかを再現する。遺族となった患者の孫である男性は、現場の救急隊や医師達を責めなかった。なぜなら彼自身も救急医療に携わる医師で、現場の窮状を知っているからだ。医師不足と苛酷な現場が悪循環を生み、大阪府や厚生労働省の対応も実効が上がらない。その一方で、患者側の「コンビニ医療」が救急現場を疲弊させている事実も浮かび上がる。

西田敏行と竹下景子による二人芝居の文芸ドラマシリーズ。◆３７歳の月子は、７０代となった高校時代の国語の教師と飲み屋で再会する。月子と“センセイ”は、それから何度か一緒に飲むうちに、飲み仲間としての付き合いが途切れずに続いた。同じ時を過ごすうちに、“センセイ”に対する月子の気持ちは徐々に変化してゆく。年の離れた月子と“センセイ”の面白おかしく、時に歯がゆく切ない日々を描いた物語。（５回シリーズの第４回）◆原作：川上弘美、脚色：佐藤ひろみ

１９８６年７月、発達した梅雨前線による豪雨で京都府南山城地方では総雨量３７２ミリを記録。木津川の堤防が決壊し、土石流が発生し、和束町木屋地区が孤立した。２０００年９月の東海豪雨では降水量４２８ミリを記録。二つの水害は発生状況が似ているが、東海では死者が出て、南山城では出なかった。京都大学防災研究所巨大災害研究センターの河田教授は、その時の心理状態や地域コミュニティのあり方に大きな違いがあったと分析。また最近ではいわゆる「災害弱者」への対策が急務だと訴えた。しかし個人情報保護法という名目のため対策は遅れている。ラジオと行政と住民が連携し、災害時に協力して立ち向かうシステムを紹介する。

人口８０万人で静岡県第一位の広さと人口を持つ政令指定都市、浜松市。しかし、郊外に大型ショッピングセンターが続々と進出し、“街なか”は求心力を失い、かつて栄えた商店街の店舗が次々に閉店に追い込まれている。だが、そんな状況の街にも、様々な情熱の炎が混在している。浜松市の街なかで失われてゆくもの、新しく生まれるものを、街なかの若き店主が自らの足で歩き、音風景とインタビューで伝え、古きよき伝統と文化を再発見し、問題点とこれからの課題を浮き彫りしていく。